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チェリーボーイのシャル・ウイ・ダンス

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「お前こんなとこで募金活動してんのかよ。偉いねえ。たくましい」
「誰?誰?」
「ほらあの飼育委員の河野内」
「ああ、河野内。そう、いた。いた」
 四人は皮肉っぽく大笑いをした。
「じゃあ、俺千円入れとくや」
 四人のうちの一人が財布から千円札を出して、凱斗の募金箱に入れた。
「千円も。すごい。たくま。優しい」
「まあ、頑張れよ。河野内」
凱斗は、「ありがとうございました」そんな風に深々と頭を下げた。そのときの凱斗はなんというか、本当哀れで、惨めな姿だった。凱斗の前に姿を現そうと思っていた僕は、凱斗に会わず、その場を立ち去り、群馬の家に帰っていった。
そんな凱斗は今や東京の、東京工業大学の学生だ。国立で難易度的にも慶応を上回っている。僕は群馬の大学に進学した。
そして古屋敷のそばの河川敷で今晩車でキャンプをしに行った。
僕はうまく話をするのが下手というか要点をおさえて話をすることができないが、僕が言いたかったことは、僕と凱斗は大の親友で、世の中、最後には頑張ったものが勝利する。なんてったって凱斗は東京工業大学の学生だ。国立の大学だ。でも親友が国立の大学に入った自慢話の一つくらいしたって罪ではないだろう。二人とも大学三年生だ。
僕達は河川敷に行って買ってきたビールを出して、チーズ、ミックスナッツ、ピザポテト、そして、ねぎとろ巻きや納豆巻きを出して二人でパーティーを始めた。
「かんぱーい」
 凱斗は言った。
「おい琉生(るい)こんなとこでキャンプをやってて本当に大丈夫かな。例の古屋敷のそばだろ」
「なにどってことないよ。あれは俺達が小学校、中学校の頃のつまらない噂話さ。幽霊なんて出るわけないよ」
僕はそう言った。凱斗は
「ところで琉生、お前大学で彼女できたか?」
「いや、できないよ。凱斗は?」
「彼女なんてできるわけないだろ。東京工業大学は野郎ばっか。彼女どころか、女の子と話す機会もない」
「じゃあ二人とも童貞ってことか」
「そういうことだな」
 凱斗は、
「それにしてもあそこの古屋敷に出ると言われている幽霊なんだけど実在してたって言われてんだよ。それは僕が東京工業大学にいっているときにゼミの先生に聴いたんだけどさ。信用できる話らしいよ。おまけにそのゼミの先生。あの古屋敷のこと知ってるんだって」
「古屋敷を知っている?どういうこと?」
 僕が言うと、
「つまりだよ。ゼミの先生、その古屋敷に幽霊が出るって話まで知ってるんだよ。なんでも江戸時代から伝わる日本の歴史を覆す秘密があるから君にも幽霊の話はできないって。政府にも関係してるって」
「怪しくねえ?その先生。何で大学の先生が幽霊の話まで知ってるんだよ。あれは僕達子供達の間だけの噂話。古くからの迷信だよ。そんなのありっこないよ。何を教えている先生?」
「ゼミで知り合った宗教学の先生。俺があの幽霊屋敷の近くに住んでいました。あの近くの出身ですって言ったら、その先生くいついてね。詳しくそれを教えてくれって」
「宗教学?やっぱり怪しくね?その先生。でも何だか俺も怖くなってきたよ」
 僕が言うと、
「琉生もそうか。俺も少し怖くなってきた」
そして僕は言った。
「ようはその古屋敷に近づかなきゃいいんだろ。あの中に入ることはまずないから」
「そうだな。琉生。あの屋敷の中にさえ入らなければ、幽霊に会うことはない。近づかなきゃいい話だな」
「そうだよ。そうだよ」
 凱斗は
「でもなんか怖くなったら、小便したくなってきた。ちょっと川で小便してくる」
「ああ、気をつけろよ」
 そして僕は一人残された。
 なんだか凱斗がいなくなると、心なしか心細くなってくる。風が、自分が風鈴にでもなったかのように虚しく身体を突き抜ける。夏だからまだ明るいけど、もう夕方七時を回っている。どういうわけか、凱斗がなかなか帰ってこない。
“どうしたんだ。おかしい”僕は思った。
“まさかもう僕達は幽霊の世界に足を踏み入れてしまったのか、凱斗と僕は幽霊の力で引き裂かれたのか”
 そう思ったのも取り越し苦労、凱斗は戻ってきた。だがずぶ濡れだ。おまけに猫を抱えている。
「どうしたんだよ、凱斗ずぶ濡れじゃないか」
「ごめん。川辺で猫が溺れていたんだ。そして助けに行ったら……」
「服どうすんだよ。乾かさなきゃ」
「琉生。マッチ持ってるだろ」
「持ってるけど燃やすものがない。たき火やったって、裸になったら風邪ひく」僕は言った。
「家に帰りたくても、俺達二人ともお酒飲んじゃったしな」
「そうだ」僕が言うと、
「何かいい案が浮かんだのか?」
「いや、でもこれはまずいなあ」
凱斗は、「何だよ。言えよ」
「いや何でもないやめとこ」
「言えよなんだよ」
「なあ凱斗。あの古屋敷あんだろ。あそこの中に暖炉があるらしいんだ。家の中だから服を乾かしている間、裸でも風邪をひかない」
「古屋敷に入るってことか?」
「いやでもいい。君子危うきに近づかず。屋敷には入んないよ。忘れてくれ。自然乾燥」
「でも俺風邪ひいちゃうよ」
「我慢しろよ」
「二人で行こうよ。お前、幽霊なんて迷信だって言っただろ」
「お前の方こそ東京工業大学の先生が実在した人物って言ったろ」
 僕達は二人でしばらく黙った。
 夏だけどもう夜なので冷たい風が吹く。
「行くか」僕が言うと、凱斗も、
「行ってくれる?よし。じゃあ、行くか」
 二人で屋敷の中に入った。ドア付近で、
「押すなよ。琉生」
「えっ。俺なにもお前の背中なんて触ってないぞ」僕が言うと、凱斗は、
「おかしいなあ。今確かに押されたと思ったんだけどなあ」
「気のせい。気のせい。気にしない」