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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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絶対扶養者になれたなら

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買い物の帰り近所の福引に参加した。
ちょうど欲しかったポケットティッシュをもらうつもりだった。

「おめでと~~ございます! 1等です!!」

「ええええ!?」

まさかの1等が出て周りは騒然とした。
ハワイ旅行か、はたまた大量のお米か……。

「1等は永久扶養券です!!」

「…………え?」

「はい、ではこれをどうぞ」

渡されたのは1枚の戸籍変更用紙のようなもの。
すでに記入済みのもので、自分の名前を入れれば完成する。

「これは?」

「永久扶養券ですよ。ご自分の名前を書いて
 お近くのお役所に提出してください」

「名前変えろってこと?」

なんで名前を変える必要があるのか。
まったく意味はわからない。

ただ、1等の賞品というんだからこれをやらなきゃ損。
記入を済ませて役所に提出した。

「受理しました。
 ですが、もうあなたの名前変更はできません。
 継承したそのお名前、大事にしてくださいね」

「よくわかりませんが……」

晴れて俺は「山田太郎」と改名した。
といっても、何が変わるわけでもなかった。

「のど乾いたな」

てっきり名前を変更すればハワイにでも行けるかと思っていた。
そんな緊張感からすっかりのどが渇いたので自販機をタッチ。

――ガココンッ。

お金を入れる前にジュースが出てきた。

「……え? まだお金入れてないぞ?」

お金を入れると釣り銭にそのまま突き返される。
なにがどうなっている。自販機が壊れているのか。


変化はそれだけにとどまらなかった。

その日の帰り、コンビニのレジで会計を行うと

「しめて480円になります。あ、でもお代は結構です」

「え?」

「永久扶養者の山田さんですよね。
 お代は扶養してくれている方からもらうので」

牛丼屋さんでご飯を注文した時も。

「山田様からはお代をいただけません。
 永久扶養者ですから」

ここいらで俺は1等の良さがわかってきた。

「まさか、俺ずっとお金払わなくていいのか!?
 やったーー!! ずっとおごりだ!!」


いくら高い買い物をしても苦情が送られたり
上限額が出されたりすることもない。完全なおごり。

こんなに嬉しい1等が他にあっただろうか。

「っしゃーー! ファーストクラスで世界旅行だ!
 自分用のクルーザーも買って遊びまくるぞ!」

海外に行っても支払いは扶養してくれる。
俺の財布からお金が減ることは1度もない。

そして、羽振りのいい男はモテる。

今まで恋人のひとりもできなかった俺に恋人ができた。
もちろん、宝石やらバッグやらを湯水のように買い与えられる。

俺は扶養されているから。

「ありがとう! 大好きよ!」
「お金のことなんてもう気にしなくていいんだぜ」

かくして、俺たちは結婚することになった。
でも1年後に離婚することとなる。

原因は俺が永久扶養者だということにあった。

「あなたはいつもお金を払わらないわね!
 お金の価値をわかってないわ!」

「そんなことない! なんでそんなことで怒るんだよ!」

「そんなこと!? あなたがお金を払わないことで
 私が周りからなんて言われているかも知らないくせに!」

「何て言われてるんだよ……」

「オトナ子供よ!
 いつまでも養われているオトナと言われてるの!」

「そんな……」

「あなたといると、いつも誰かに扶養されてる!
 そんなのもう嫌よ!!」

彼女は家を出て行った。
にぶい俺でもその言葉でやっと気が付いた。

永久扶養者となった俺からは"金を使う"という自由が奪われたことに。

「お代は結構です」
「永久扶養者からはいただけません」
「代金は扶養者の方に負担いただきます」

「くそっ! これじゃいつまでも
 俺は"親に買い与えられている"って見られてしまう!」

彼女の言っていたオトナ子供。
自分ではお金を使わないことで、
金の扱いができない子供だと思われる。

周りのみんなはお金を払っているのに
俺だけいつもおごってもらっている。
それは支払い能力がないことのように思われるのだった。

「もうだめだ! 俺は自分の金で自分のために使いたい!
 誰かの金で一生楽できるなんて……もうまっぴらだ!」

俺は自分の扶養者を探した。
金ならいくらでもある。
その気になればすぐに見つかると思っていた。

でも、いくら足取りを追っても扶養者を見つけることはできない。

「くそっ! どうして見つからないんだ!
 扶養者さえ見つけられれば断ることができるのに!!」

どれだけ見えない背中を追いかけても
たどり着くのはハズレばかり。

幾重にもダミーらしき扶養者にばかりあたって
俺の心はだんだんとあきらめに浸食されていった。

「ダメだ……これだけ金を使って探しても
 見つかるどころかより謎が深まるだけだ……」

金から解放された俺にとって、
時間の消費はなによりも耐えがたいことだった。

「もうだめだ……俺はこのまま一生扶養されるのか……」

絶望のふちに追い込まれた時、俺はあるアイデアを思いついた。


 ・
 ・
 ・


それはとある商店街のくじ引きだった。

「1等おめでとうございます!!
 賞品は~~永久扶養券でございます!!」

「わぁ! やったーー……は? 永久扶養券?」

「さあさ、こちらをどうぞ」

1等を当てた男は名前変更用紙を渡した。
それには、俺の名前もすでに記入されている。

「あとはこれに名前を書くだけで、
 あなたは永久に扶養されますよ。おめでとうございます」

「わかりました! さっそく行ってきます!」

1等を当てた男は嬉しそうに名前を変更しに行った。


まもなく、扶養者「山田太郎」は別の人へと移された。


「お会計480円になります」

「それじゃ千円で」

その帰り、俺は自分の金で買い物をした。
満面の笑みで金を支払う俺はさぞ不思議に思われたことだろう。