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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅳ

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「片桐1尉、いつも賑やかですけど、いろいろ助けてくれることもあるんですよ」
 美紗は苦笑いしてお調子者の航空自衛官のことをフォローしたが、その笑顔は少しやつれていた。
「そうなの? まあ、小僧だから、ちょっとでも使えればマシってとこなのかもね。どっちかというと、とげとげのイガグリ3佐のほうが問題か」
 上品な仕草でコーヒーの香りを楽しむ吉谷の口からは、滑稽な言葉が次々に飛び出してくる。美紗を元気づけようと気遣っているようでもあるが、元から強烈に朗らかで豪胆な性格なのかもしれない。
「先任のイガグリはさ、悪い人じゃないんだろうけど、もうちょっと『普通』に話してくれればいいと思わない? 演習場で仕事してんじゃあるまいし」
「私が怒られることばかりしているので……」
「だからってさ、部屋中に聞こえるような声でがあがあ言うことないじゃない。大きな声で怒鳴るのも一種のパワハラでしょ」
 吉谷が直轄チーム先任の松永3等陸佐の悪口を並べ立てるのを、美紗はしょんぼりと聞いていた。図らずも極秘会議の場に居合わせてしまった日から、美紗は、全くと言っていいほど仕事が手に付かなかった。第1部長の日垣は、一か月ほど待って特段の動きがなければ部内調査はないだろう、と言っていた。その一か月が、恐ろしく長く感じる。
 コトが露見すれば、自分も日垣も、不名誉な形で職を追われる。不安を顔に出さないように努めようとしても、直轄チームで最古参の高峰3等陸佐の存在が、美紗の心を動揺させた。緊急入院した家族の状態が落ち着いたといって早々に職場に戻ってきた高峰は、直轄チームのメンバーを装っているが、その実、世間に公表できない部署に属する連絡員だ。意図せずして彼の正体を知ってしまったことは、他のメンバーにも、高峰本人にも、悟られないようにしなければならない。
 誰にも気づかれずにやっていけるのか、いつの間にかそのことばかり考えている。上官の指示を聞き間違え、作業が緩慢になり、指導役の松永から与えられた簡単な調整業務でミスを連発した。松永は、初めの二日間は様子見の構えだったが、三日目になり、ついに「何があったか知らんが仕事に集中しろ」と喚いた。それから後は、美紗が些細な間違いを犯すたびに、派手に叱責するようになった。