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完全ヒーロー主義の八番目。

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第三話 臆病者の視界


赤色は強い自己主張。
白色は純粋さや透明。
緑色は調和と成長…そして、自信喪失。
桃色は幸せと愛情。
青色は鎮静と公平。
水色は変革と自由。
黄色は活発と幸福。
灰色は信頼と温厚。
橙色は寛大と快楽主義。
そして黒色は…闇と束縛。

僕の色は…黒だ。誰もその色を取らなかったから、僕の服装なんて誰にも気にされないだろうから、と残った黒を選んだのだった。暗い意味しか持っていない黒なんて、誰も選ぶ訳が無い。

「……ごめんね、遊哉兄さん…」

黒のパーカーを僕に手渡してくる時、申し訳無さそうに目を伏せた遙は項垂れて言う。彼は昔から僕の事を気に掛けてくれていたから、色の意味も知っていた遙だから。罪悪感に苛まれながら渡しに来てくれたのだろう。

「…別に気にしなくて良いよ、遙」
「でも…兄さん…。…あんまり自分を卑下しないでね?」

卑下…か。僕はただ、誰かと接する事が怖いのだ。何を言われてしまうのか、もしかしたら嫌われてしまうかもしれないと思ってしまう。

「…大丈夫だから、僕は大丈夫だよ」
「……そっか」

少し残念そうにだが納得すると、「じゃあお昼作ってくるね」と言って立ち上がろうとすると、長兄である信太郎が居間へと入ってきた。

「…あ、遙。もうそろそろ昼飯の時間だよな?」
「え、うん…。それがどうしたの?」
「いや…大した事じゃねえんだけど、遙が作らないなら俺が作りに行こうかと…」
「すぐに作らせて頂きます!」

兄さんが言い終わらないうちに遙がきちんと立ち上がってまるで軍人のように半ば叫ぶようにして言った。
…こう言うのはアレだが、兄さんは物凄い「ド」がつくほどの味音痴である。味音痴であるということは、料理も食べられる代物ではない、という事だ。
その事実はこの家に居る全員が知っていて、家の中では一番彰斗さんの手伝いをしている遙が食事を作るのは暗黙の了解だった。

「……深く考えるなよ」
「……?……えっ?」

不意に兄さんが僕にそう告げて、思わず聞き返してしまった。恐る恐る兄の方を見ると、いつも通りの仏頂面がそこにはあった。冷めた目だ。…本当に彼は橙色の意味を直接杏に伝えたのだろうか。また難しく考え出してしまうと、乾いた笑い声が彼の口から零れたのには驚いた。え、と声が出て兄を凝視すれば、彼は目を閉じ、自然と口角を上げて言う。

「…そう慎重になるな。俺だって…《《誰かさんの所為で》》こんな風にお前らの事も気に掛けるようになったし。…本人には内緒だけどな、今じゃこれくらいはお喋りになってんだよ」
「…知ってるよ。多分その本人とやらにも…半分近く気づかれてると思うけど……」

「知ってたのか」とさして驚いてもいない様子で柔らかい笑みを浮かべる。…杏の言う通り、彼は黙っているか愛想さえ良くしていれば、人気者にはなれる逸材だ。……他の弟たちもそうだが。

「……でもな、何か…嫌な予感がするんだよ」
「…嫌な予感……?」
「よくは分かんねえけど、《《このまま何事も無く暮らしていける》》とはどうしても思えない。何かが起きる気がする…、まぁ…勘だから何とも言えないんだけどな」

うーん、と目を瞑りながら唸っている兄さんは、苦笑いを浮かべてため息をついた。


*******


…そもそも、僕はこのままで居て良いのだろうか。
対人恐怖症ばかりは治すことは出来ないけれど、何か自分を変えるための方法がどこかにある筈だ。

「………」

そんな事を考えていたが何の考えも浮かばないまま瞑想していると、ふと本と睨めっこ状態の響が横に見えて、響は僕の視線に気づくと微妙な表情を浮かべる。僕は彼に嫌われているのだろうか。何となくそう思ってしまう自分が嫌で、悲しくなってしまう。

「…ねぇ、聞いてんの?」
「……えっ?あ〜…ご、ごめん…聞いてなかった…」

そう答えれば少し不服そうな表情を浮かべたが、響は何でもない顔で「別に良い」と呟く。

「…それはそうと、彩乃姉さんからこの本貰ったんだけど…。漢字ばっかりで読めないんだよね、これ」
「…。……ちょっと見せてみて?」

見てみるだけしてみようと思い手を差し出すと、響はすぐに本を手渡してきた。その本をそのまま流し読みし、内容を把握すると、なるほど彩乃が勧めた本だと言うのは本当らしい。…ふと、気になった文章の場面が有った。

「……響、少しの間…この本…貸してくれる……?」
「それは良いけど…、……どうかしたの?」

本当の理由を言う訳にはいかないと、誤魔化すように下手くそな笑みを浮かべてみせた。

「_________…何でも、ないよ」