小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

完全ヒーロー主義の八番目。

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 

第一話 始まりの日記


日記をつけ始めたのは十年以上も前のことだった。
何を切っ掛けでつけたのかは定かではないけれど、恐らく僕は忘れっぽかったのだ。今からしてみると有り得ない事だが、昔は今と一人称も違って僕が「俺」だった頃。日記を見返してみたら、ページの所々が汚れていて、始めたばかりの頃は何を書こうか迷っていたのだと窺える。だから今の僕の解釈で昔を振り返ってみようと思う。


***


「…で、どれから手をつければ良いかよく分からないんだけど…どうすれば良いと思う?」

出来るだけ拙い言葉遣いで末妹である杏に意見を求めると、少し考え込んだ様子だったが思いついたように手を叩くと話した。

「ん〜…。あ、じゃあさ!遙兄さんは二階に行ったこと有る?」
「……へ、に、二階…?そりゃまたなんで??」

二階に何が有るのかと思い聞いてみると、満足げな笑みを浮かべて嬉しそうにしている。勿体ぶらずに話して欲しい物だが、遠回しに言うつもりはないらしく続けて話した。

「二階にはね、私の一つ上のお兄さんが居るんだよ。響兄さんとか彩乃姉さんも知ってるよ、知らないのはお兄ちゃんと遙兄さんと…凛姉さんだけかな!」
「なるほど…。でもなんで下には下りてこないワケ?」

機嫌が良い様子で説明する杏に苦笑いをしながら最もな疑問を問いただした。するとマズい事を聞いてしまったのか杏の表情が固まっている。

「いや、言えないような事情でも有んの…?」
「うぅ〜…、何ていうか…深〜い事情は有るんだけど、私から言うのは何か違うというか…。と、とにかく!荒戯兄さんに会ってみればその理由も分かるよ!」
「…………………」

ぐうの音も出ない、とはこの事だろうか。呆然とする他にどういう表情をすれば良いのか分からなかった。

とは言え、それ以外やる事も無いので目的が決まっただけでも前進だろう。


****


…さて、二階に上がって来た訳だが…何せこの家は無駄に広い。二階の部屋の数は目で一通り数えてみただけでも多い。その事を考えると、気が遠くなりそうで面倒だが、目的はもう決まっているのだからそんな我侭を言っている場合でもない。
取り敢えず手前の部屋から見ていく事にして、扉を開けていった。その部屋はどうやら客間のようで殺風景な部屋だった。荒戯が居ないのは目に見えて明らかで、その後も手前から順番に部屋を見ていったが、結局一番奥の突き当たりに有る部屋だけを残すだけとなった。

「やっぱり後はこの部屋だけ……かぁ」

何となく緊張してしまって頭を落ち着かない気分で掻くと、ドアノブへと手を伸ばす。しかし、手を掛けてから一向に扉を開けることが出来ない。勿論鍵は掛かっていないので、入ることは出来るのだがどうも躊躇われる。うだうだとそのままの状態で居たが、思い切って扉を押し開けた。

「………?…うわぁ……、誰かの…部屋……だよな、この感じ……」

思わず目を瞑って部屋に入ったものの、誰の声も聞こえないのを不思議に思い恐る恐る目を開けるとまるで留守中のように静かであった。
しかし、杏の話では彼は部屋の出入りさえしていないとも聞いた。…だとしたら、一体どこに居るのだろうか。ごそり、と布擦れの音がして目を移すと、思わず呆気に取られた。
目をやった先には、丸まった布団が存在していて不規則に動いていた。それには流石に目を丸くして、ついつい後ろに退いた。
(…え、何これ?動物…ではないだろうし、まさかとは思うけど…杏の言ってた『荒戯』だったりして……)
そうだったら関わりたくないな、と今更ながら思う。厄介者だとは思わないけれど、ただの変人ではないかとは思う。しかし勝手に決めつけるのも良くない。
意を決して『それ』に向かって近づいていくと、毛布がズレて人が出てきた。少年は僕に気づくとキョトンとした表情で見上げてくる。確かに彼が杏の言っていた僕らの知らない弟の荒戯だろう。

「…もしかして、『遙兄さん』?」
「…………は?」

何かに気づいたように少年____荒戯は僕の名前を呼んだ。どうして僕の名前を、と呟くと「やっぱり」と嬉しそうに深い笑みを浮かべて彼は喜んだ。僕が状況を呑み込めないでいると徐に彼は話した。

「彩乃姉さんから聞いてたんだ!面白くて良い人だって〜」
「それで俺の名前を…?」

半信半疑だった為にもう一度確認するように聞き返すと、笑顔で彼は頷いた。

「それにしても嬉しいな〜。部屋の中まで入ってくる人なんて遙兄さんが初めてだからかな?」
「…え、初めて……なの?」

何だか意外に思えて問いただすと、何を聞いているのか分からない、とでも言うように荒戯は首を傾げた。

「だって僕、みんなに怪我させちゃうかもだから外にも出れないし、こんな風に誰かと面と向かって話す事だって出来ないんだよ?」
「何それ…初耳なんだけど……?」

知らなかったなら仕方ないね、とマイペースな様子で荒戯は言っていたが、その荒戯の口振りではまるで…。

「…なんで、行動を制限されてるの?」
「…うぇ?ん〜…と、なんでだったっけ…。…確か…僕が普通より力持ちで…、まだ物を壊しちゃう所とか有るからかな!」

能天気な様子でへらへらと笑って話している内容とは裏腹に、とてつもないものだった。この部屋の中でずっと過ごしているのなら、暇に思っているに違いない。

「…これ、あげるよ」
「…お?わ、何これゲーム!?面白そ〜」

残念ながらゲームじゃなくて音楽プレーヤーだよ、と言い直してあげると、特に意味も分かっていないのか繰り返し言っている。

「…それと、これも。もし何か乗り越えられないような事が有ったらそれを使って。後これは、『僕』からの贈り物だから」
「おお…!!ありがとう!これさえ有れば平気な気がしてきたよ!?」

目を輝かせて言う荒戯に少し安堵して、腰を上げてから部屋を出ようとすると荒戯が後ろを着いてくる。それを疑問に思って立ち止まって振り向くと、彼もそれに合わせて立ち止まった。

「……あのさ、出ちゃいけないんじゃなかった?」
「ん〜…。確かにそうだけど…まぁ大丈夫だよ!」

その自信は一体どこから来るのだろうか。何となく、その時から僕は『僕』になったのだと思う。