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海の向こうから

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11 おお、平和よ



 私たちでこぼこ調査隊はふたたび貝浜を目指した。今回の目的地は岬ではなくすぐそばにある小さな漁港だ。漁港なら駅から近くのところにある。

 昨日の調査の結果からわかったことは、サハロフ・ミシューチンというソ連の歌手は昭和55年のナジエージタ号沈没事故で地元漁船に救出された唯一の人物だ。そして、彼は今日「恩人」と会うことになっている。私たちの推測が間違っていなければ恩人は沈没した場所の近く、貝浜の漁港にいるに違いない。
 確証はないけれど、そして私が浜で拾ったレコードと接点があるかはわからない。だけど、このチャンスを逃せば私たちの調査は迷宮入りするに違いない。そう思っていた――。

 今回おじいちゃんは会合のため欠員となったが、そのお陰で前回乗ることができなかった電車で行くことになりちょっとラッキーに思った。
 乗り換えまではスムーズだったけど、それから一時間に一本しかない電車に乗って貝浜へ向かった。3人で席を囲んで2両しかない電車はゆっくりと走る。右手にはなだらかな山脈、左手には水平線が見えて旅行してる感があって気分がいい。
「イリーナさんは電車に乗りますか?」
「ハイ。ロシアにはシベリア鉄道があってウラジオストクからモスクワ、さらに西欧まで行けますよ」
 イリーナさんは青い目を大きく開けて微笑んだ。ロシアの人でも横断をするのは夢の話なんだとか。
「端から端まで一週間くらいかかるんだよ」
「へえ、さすが世界一広い国だ」
「でも、海を見ながら電車に乗ることはないデス」
 窓の向こうを見ると白い波を立てて海が騒いでいる。イリーナさんは日本の風景も良いと言いたい優しさが伝わってきた。

 3人で向き合って話していると時間は早く過ぎる。程なくして列車の先にレトロな駅舎が見えてきた。再びやって来たここは貝浜駅だ。

   * * *

「貝浜、かいのはま~」

 駅員さんの透る声で到着したことを告げられる。冬が近づいた
ホームは強い風が通り抜け私たちを身震いさせた。
「おや、以前にもここに来られましたよね?」
 若い駅員さんが声を掛けてくれた。私たちの住む甲山も都会ではないけど、ここの駅員さんはとてもフレンドリーだ。慣れた手さばきで列車の扉を閉めて、指差し確認して次の駅に送り出した。

「覚えてるのですか?」
 列車のいなくなった短いホームで私は駅員さんに思わず声をかけた。それだけ駅員さんの顔が優しそうに見えた。
「はい、何せ利用客が少ないので、ここを利用する方の顔はおよそ記憶してます」
「へえ」
「仕事ですからね」
 駅員さんは白い歯を見せて笑った。そしたらイリーナさんみたいな明らかな外国人が来たら覚えているに違いない。私たち3人が質問しようとすると、イリーナさんの顔を見た駅員さんの方から話し出した。
「一つ前の列車で、同じように外国人がここを通って行きましたよ」
「そうですか」
 先生は静かに返事したあと、私たちの肩を取って円陣を作った。そしてみんな同じタイミングで笑顔を作った。私たちの予想が的中したようだ。
「何か、ありましたか?」
「いえ、何でもないです」
 先生はそういうけど、私はこないだこっそり携帯電話で撮ったサハロフさんの写真を駅員さんに見せた。すると、あごに手を当てて少し考えた様子を見せたあと、ハッとした顔をして目を開いた。
「ああ、この人ですよ。さっき通ったの」うんうんと頷いて自分自身に納得している「ただね、言葉がわからなかったのでどこへ行ったかわからないんです。片言の英語でもダメだったから」

 はやる気持ちを抑えて駅員さんにお礼を言って駅を出た。目指すは貝浜の漁港だ。場所は列車の窓から見えたからわかる。私たちは風の吹く海の方を向いて、足を前に進めた。
 さっさと行動しなければならない。電車は一時間に一本しかない。なので2時間後にはここに戻って来なければならないのだから。

作品名:海の向こうから 作家名:八馬八朔