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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 一、太陽の章

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 けれど、その瞳の様子は、明らかに普段と違っていた。焦点の合わない目。ぼんやりと開かれたそれは、瞳孔が小さく絞られ、それを囲む光彩の色が明らかに淡く、まるで白目が溶け出したかのように、異様な印象を与える。
「母さま、目が」
 娘は震える声で訴えた。
「目が見えないのね?」
 カナスの問いかけにうなずく。
 あの大蛇は、北神が寄越したのに違いなかった。
 太陽神に反する神々を率いる北の主神、「生命神ハピ」は、姿なきものに形を与え、自在に操る術に長けていると聞く。
 最近、人間界が北の力で荒らされていると感じていたが、おそらくあの大蛇……そうでなくても、同種の存在によるものだろう。しかし、
(これはいったい……)
 カナスはもう一度、ソークの様子を映す。
 この少女が叫びをあげる直前に、何かが一瞬、光を放った。そして、カナスが刺し貫いた大蛇の左目は、なぜだか、それ自体が光りを生んではいなかったか。
 ソークの目に見られる状態変化は、カナスの知らないものではなかった。
 それは同属「火属」の上位にあたる神、「輝神ヘル」にしか扱うことのできない、特殊な術のはず。
(でも、『輝神ヘル』は)
「カナスさま、娘の目は、治るでしょうか」
 その言葉に、カナスは立ち上がった。
「すぐに戻りましょう」
 なぜあの術が北神の創造物に扱えたのか。その理由はわからなかったが、はっきりとしていることがひとつだけある。
 中央神殿にいるヒキイになら、この術が解けるということ。
 「輝神ヘル」である、ヒキイになら――。
 アスがソークを抱え、その加護に感謝を述べる人間たちに別れを告げると、カナスは足早に南へ向かった。
 まずはこの人間界を出なければならない。南の神殿へ通じる道は、ここをもう少し離れたところにある。
 気が急いた。あの化け物を倒したというのに、霧のように漂う砂が晴れない。
 いやな予感がする。
 焦りを感じ、アスとソークを何度も振り返る。――あともう少し、早くしなくては。
 そのもう少しというところまできて、カナスの不安は的中した。
 アスたちの背後で、漂う砂が一点に集い、渦を巻く。
 その位置に、強大な力の気配。
 あの大蛇など比にならないほどの、大いなる力。それは、神のものに違いなかった。
 ほとんど反射的に、カナスはその手の黄金を強く握る。
 気配を収めずに、それどころかまるで誇示するように表すそれは、その主の好戦的な性質を物語っていた。
 二人の女神に駆け寄り、その背後を守るように、カナスは槍を構える。
 しかし、そんなカナスをあざ笑うかのように、先を急ぐアスたちの前に突如、砂の柱が立ち上がった。
 カナスが振り向く間にも、巨大な柱は幾本も突き上がり、その道を塞ぐ。
 天をも突く勢いでそびえ立つ砂の柱は、ついにカナスたちをぐるりと囲い込んでしまった。
「ククク」
 低い声。
 砂の渦が引くと、そこから見慣れぬ男が姿を現した。
「?太陽の雌獅子?か」
 片端を持ち上げるようにして笑んだその口元。
 カナスは初めて目にする北神を、強い警戒をもって捉えていた。