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からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話

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 「さぁ。知らないな」康平が、素っ気なくつぶやく。

 「ピンボケ写真が、残念です・・・・
 まともに写っていれば、拡大できたし、正体を解明できた。
 動揺し過ぎていたから、適当にシャッターを押していたんだわ。
 落ち着いていたつもりなのに、やっぱり、うわの空でした」

 「冷静な君にしては、珍しいね。
 絶好の角度で、しかも理想的なシャッターチャンスだったようだ。
 ピントを合わせて、シャッターを押すだけでよかったのに、
 見事に失敗したもんだ。
 動揺していたというが、何が、冷静な君を狂わせたんだ。
 俺には信じられない。貞園が動揺しすぎて、撮影を失敗するなんて」

 「本当に驚きの連発だったのよ。
 私だって時には、パニックになります。
 美和ちゃんは妊娠しているって告白するし、そのうえ、初めて見せてもらった
 暴力亭主の顔は、あの発砲事件の実行犯でしょ。
 さすがの私も、今回ばかりは対応しきれずにパニックに陥りました。
 あっ・・・まずい。
 誘導尋問にひっかかって、全部、白状してしまいました!」

 「なるほど、そういうことか。事態が飲み込めてきた。
 3つのキーワードが登場したな。
 ひとつめは、美和子の妊娠。二つ目は、DV亭主の顔か。
 3つめはそいつが、発砲事件の犯人だったという事実。
 これだけそろえば、貞園でなくともパニックになる。
 美和子が妊娠した事実。
 夫婦だもの、これは充分に有りうる範囲の出来事だ。
 家庭内のDVは、こいつはすこしばかり厄介な問題だ。
 だが一番厄介なのは、そいつが発砲事件の実行犯だったという点だ。
 で、どうしたいんだ貞園は。
 一筋縄で片付く問題じゃないぞ。
 たしかに貞園が言うとおり、こいつは難しい問題だ」

 「そう思うでしょ、康平も。
 美和子は妊娠をきっかけに、亭主がいい方向へ変わるのを期待している。
 わたしも心情的に、すぐに警察へ通報する気になれないの。
 かといって妊娠も、DVも本人同士の問題だもの。
 夫婦間のことだから、第三者は介入できません。
 助けてあげたのだけど、完全に、手詰まり状態です」

 「DVなら、だいぶ前からそうした兆候はあった。
 腕に、青あざが見えたこともある。顔に傷跡を見たこともあった。
 『どうしたんだ?』と聞いたけど、本人は『転んだの』というだけだ。
 本人が告白しない限り、助け舟は出せないからね」

 「ふぅ~ん。なるほど。
 チラリと何かが腕から見えるような、怪しいことをやっているんだ。
 あんたたちは・・・」

 「勘ぐるなよ、貞園。大人らしくない。
 美和子の考え方ひとつだな。
 俺たちがいくら騒いでも、DVは犯罪だと本人が理解しない限り、
 事態は変わらない。
 DVは、『密室』の中で行われる犯罪だ。
 当人同士や、夫婦間の出来事だからという考え方が、
 事実を隠蔽することになる。
 淡い期待があるようだけど、たぶんこの先も好転しないだろう」