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LOVE FOOL・前編

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「その紋章はラーレの騎士。…ラーレとは同盟国故、争いたくは無い。が、しかし…」
 思っていた通りの人格者。
 話の通じる相手に一先ず安堵し、アストは悪態を吐き出すヴィヴィアンの口を押さえ続けた。

「勿論、だからといってこのまま帰る訳にいかないのはこちらも十分承知。
ヴィヴィアンヴァルツは無実だと証明すべく「同行」する。それなら双方にとっても納得のゆく
和解案だと思うが、どうだろうか?」

 強制的に容疑者として連行されるのでは無く、彼等に協力する為、共にラモナまで行こうと云うのだ。
魔術師のヴィヴィアンには結果的、同じにしか思えないのだが、騎士である彼等には大きく異なるらしい。

「…心得た。聡明な貴公の判断に感謝する」
 ラモナの騎士達は、彼の些細な頷きを受け即座に離す。
掴まれた腕を乱暴に振り払いヴィヴィアンは紋章をマントに仕舞う厄病神に詰め寄った。
「勝手にまた面倒な事を!どうして俺がこんな奴等と…!」
「此処で斬り捨てられるよりマシだろ」
「…うっ」

 国王、王妃暗殺とは唯事では無い。そして皇子の暗殺未遂。
未遂というからには、まだ犯人は国内に居る。
ヴィヴィアンが何故容疑者に選ばれたのかは解らないが、何やら巨悪な陰謀の匂いがする。
いち早く察したのか、身の内で熱を帯びる腕を忌々しく睨み、不貞腐れる魔術師に向き直った。

「救って貰った礼だ。俺も付き合う」
 捕えに来た騎士達は今にも出発しかねない勢いで、此方の動向を待つ。
持ち物の多そうな容疑者を考えると出発は早くとも翌朝になるだろう。

「別に頼んでない。足手まとい」
「ああ、そうだった。お前はこの街一番の有能で偉大な魔術師、ヴィヴィアンヴァルツだったな、忘れてた」

「本当に腹立たしい男だな」
 大人しく持ち前の美貌を湛えていれば女神にも勝る。
筈なのに、ヴィヴィアンヴァルツは眉を吊り上げ口許を歪ませた。

「それではヴィヴィアン…」
 留まらない二人の言い争いに、騎士団長が先を促す。
控えめに差し出された手をぴしゃりと叩き落とすと、彼は腰に手を当て自分よりも厳つい男に言い放った。
「煩い、触るな!誰だと思っている!
直ぐに解決してやるから詫びの品でも用意しておけ!」

「…。」

 一体その自信はどこから湧いてくるのか。
怒鳴られる様な態度は取っていない筈なのだが?
そう浮かぶ表情を、直ぐに正し男はアストへ無言で訴える。
 周囲の者達も癇癪持ちの魔術師にどう接して良いのか判らないと仲間と視線を合わせた。
そんな物、アストにだって判らない。
彼を理解し、上手く付き合える人間がいるとすれば、この街の同じ思考回路の魔術師か学者、司書くらいだろう。

「かなり…どころじゃないぞ。ルージュ…」

 街の門で出会ったルージュの云う「性格にかなり問題が有る」魔術師。
その意味を今ようやく噛み締め、アストライアは奮い起す。
 これは同盟国を救う為でもある。

 ヴィヴィアンヴァルツ一人の為では決して、無い。


END。

作品名:LOVE FOOL・前編 作家名:弥彦 亨