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お蔵出し短編集

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そして今―――
ファミレスの、白いテーブルを挟んで、オレとこの子が差し向かう。
「死にそうに、おなかがすいて」
その子はオレにそう言った。
「何でも食べろよ」
とオレは言った。
食べさせて、元気が出たなら、そのままバイバイだ。
野良犬にエサをやるような感覚で。
このくらいの店なら、どれだけ食われたって、2000円を超えるのは難しいだろう。
まさに酔狂だ。
いや、オレは酔っ払いだから、それでいいんだ。
「おじさん」
とその子が言った。
「死んじゃうかも、知れない」
何を言う、と思う。
「腹一杯食べて良いんだってば。腹減ってたんだろ?食えば死なないよ」
「違うんだ」
その子はそう言って首を横に振った。
「ボクの食べ物はここには無いんだよ。いや・・・ここじゃ買えないんだ」
おかしなことを言う、と思う。
ここをどこだと思っているんだ?
天下のファミレス様だぞ?
肉でも魚でも何でもござれだ。
都合で揚げ物焼き物ばかりなのはアレだが、むしろ食べ物ばかりじゃないか。
「違うんだよ」
その子がまたそう言う。
「だって、ボク吸血鬼だから」
そしてその子が、口を歪めて、右手の人差し指で上唇の端を押し上げる。


しかして、


そこにはえらい立派な犬歯が生えていた。
明らかに、確かに、人間サイズではない。
っていうか、どうやってこの小さな口の中に入ってるんだ?この牙が?
「嘘じゃないよ。ほら、瞳の色だって」
その子がそう言ってずいとオレの方に身を乗り出し、目を見開く。
黒かった瞳が、絵の具を溶かすようにふわぁと青く濁り、そのまま血潮のような赤に染まった。
「・・・たまげた」
オレは目を丸くした。
そのオレのリアクションに、その子が逆に目を丸くした。
「それ、だけ?」
オレは返事に困る。
「びっくりした方が良かったか?・・・それなら、やり直すけど」
その子が丸くした目でまじまじとオレを見て、それから、少しがっかりしたように肩を落とした。
「・・・いいよ。逆に自信なくしちゃうから」
そしてそんなことを言う。
「でも何で、あんなところにいたんだ?」
オレが何となく尋ねる。
するとその子の顔が、みるみる暗い雰囲気を帯び始める。
「・・・なんだ」
ぼそぼそと何かをつぶやく。
オレには小声過ぎてソレが聞こえない。
「?」
だから、オレが怪訝そうな顔をしていると、
「嫌・・・なんだ」
その子が絞り出すような声でそう言った。
「嫌?」
オレが思わず聞き返す。
「美味しく・・・ないんだ」
その子が言う。
「味が、嫌いなんだよ。血の。生ぬるくて、鉄臭くて。気持ちが悪い」
思わず、今度はオレの目が丸くなる。



偏食家の吸血鬼、だって?


作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名