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お蔵出し短編集

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僕のその言葉に、その人がクスッと笑った。
僕は芸能人で、有名税を収めていると言うことは、翻ってある程度の僕の人となりは相手に伝わっている可能性があると言うことを意味する。
僕はだから念じた。
この人が僕をきちんと見てくれることを。
僕はだから念じた。
この人が僕に偏見を持っていないままであることを。
だから僕は念じた。
この人が、例えば孤島に一人でいる僕に対する救いの船であるかのように、僕の方に一歩進み出てくれることを。
『バカな事を思っているな』と僕は自分で自分のことを思い、俯くと思わず照れ笑ってしまった。
その僕の俯く視線の先で、赤いパンプスを履いたこの人の右足が、そっと僕の方に向かって一歩だけ伸びた。

<了>

作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名