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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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 美紗は、すっかりふてくされた1等空尉に、遠慮がちに話しかけた。

「片桐1尉、私も海外経験ないんですよ。留学も全然」
「えっ、そうなんだ?」
 宮崎と片桐が同時に反応した。
「大学に行っていた時は、家の事情で、途中から学費も何もほとんど自分で工面しなくてはならなくなって、結局、海外で勉強する機会はないまま終わっちゃいました。だから、年単位で留学した友達とは大きく差がついてしまいましたし、経験がないせいでチャンスが来ないというのも、私、分かります。自分のやれる範囲でやっていくしかないですけど……、もどかしいですよね」
 留学経験がない、という事実は、曲がりなりにも語学系の職に就く美紗にとっては、ずっとコンプレックスだった。今まであまり話したくないと思っていた過去を、なぜこの場で口にしているのか、自分でも不思議だった。
「ここでは、私は、相当、出来の悪いほうだと思うんです。情報局に来られて嬉しいのは間違いないんですけど、本当にここにいていいのかって、毎日考えてしまって……」
「語学だけ出来りゃいいってもんでもないよ。取りあえず、うちのチームに入ったのは正解じゃない? 調整業務も地域担当のほうの仕事も、広く浅く経験できるから、将来の選択肢が増えるわけだし。ラッキーって思っときなよ」
 宮崎は、銀縁眼鏡を外すと、意外にも人懐っこい目で美紗に笑いかけた。一方、一人で文句を並べ立てていた片桐の口は、急に悲しそうなへの字になった。
「すいません。僕、ずっと鈴置さんにいろいろ失礼なこと言ってたよね」
 片桐は、大きな音を立てて机の両端に手をつくと、驚いて目を見開いた美紗に、額をこすりつけんばかりに頭を下げた。
「僕が悪かったです。これから心を入れ替えて精進します」
「エリート君の富澤3佐の檄より心に響いちゃったよねえ」
 宮崎がニヤニヤしながら茶化すと、片桐は真面目な顔で付け加えた。
「四回で合格できるように頑張りますから」
「…って、CSって、四回までしか受けられないんじゃなかった?」
 未来の高級官僚が呆れて声を上げると、直轄ジマの近くに位置する総務課から、忍び笑いが聞こえてきた。