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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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「宮崎さん、オネエ言葉やると、また比留川2佐に怒られますよ。あの人、そのテのネタ大嫌いだから」
 片桐に「宮崎さん」と呼ばれた男は、「彼がいなくなったからやってんのよ」と言いながら、わざとらしく手を頬にあてる仕草をした。以前、片桐が「ものすごく面白い」内局(内部部局)部員、と美紗に紹介したその彼は、いわゆる七三分けの銀行マンのようなヘアスタイルで、未来の高級官僚に相応しい、隙のない風貌をしていた。しかし、口を開けば、シニカルながら機知に富むトークを披露し、常に直轄チームの面々を笑わせていた。
「キミも完璧な『片桐1佐』を目指しなよ。男女問わず、絶対モテるわよ」
 美紗は、毎日のように繰り広げられる二人の滑稽なやり取りに、ついクスリと笑った。しかし、隣にいる富澤3等陸佐は、もうすっかり慣れているのか、彼らを全く無視して自分の仕事に専念していた。
「僕が日垣1佐を目指すなんて言っても、比留川2佐にバカにされるだけですよ。それに、僕はもう彼女いるからいいんです」
 片桐は、指揮幕僚課程の選抜試験に向けた「受験勉強」でストレスをためているのか、急に真顔になると、ぶつぶつと愚痴りだし、それが止まらなくなった。
「でも、いいですよね、海外経験ある人って。努力しなくても普通に読んで聞けて話せるんだから。だいたい、語学力なんて、『現地経験有り』の人じゃないと、結局、仕事では使いモノにならないと思いません?」
 片桐の最後の言葉に、美紗はかすかに暗い表情を浮かべて下を向いた。仕事もそっちのけで喋ってばかりの若い彼の思いは、そのまま、自分が心のどこかに常に抱えているわだかまりだった。
「そりゃあ、僕だって、機会があれば留学とかしたかったですよ。でも、防大で留学生に選ばれるのは、元から語学できる奴らでしょ。それに、あそこは私費留学認めてないから、僕みたいにこれから勉強しようって人間には、初めっから全然チャンスないんですよ。なんか、不平等じゃないすか。自分の部屋でちまちま勉強してるより、先に海外に出してもらえれば、僕だってすぐに……」
「務まらなくて、速攻、帰国だね」
 それまで黙っていた富澤が、手にしていた書類に視線を落としたまま、不機嫌そうに片桐を遮った。
「ぐだぐだ文句ばかり言ってるようじゃ、肝心の試験を受ける前に、日垣1佐の推薦すらもらえないぞ。無駄口きいてる暇があったら、勉強すればいいだろ」