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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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 立ち上がって、ふと、ロの字型に組まれた机の上に目が留まった。何かの書類が三、四部、置きっぱなしになっている。地域担当部のどこかが作成した会議資料だった。先のセッションに入っていた者が、余った資料を空いた席に置いたまま、回収し忘れてしまったのだろう。表紙には、赤く「秘」の印字が入っている。いささか由々しき「忘れ物」だ。誰かに見とがめられれば、担当者は保全上の問題を指摘されて面倒な事態に見舞われるかもしれない。後で当人にこっそり届けてやろうと思った美紗は、机の上の書類に手を伸ばした。
 その途端、左腕に抱えていた自分の持ち物が落ち、紙と小さな筆記具類がテーブルの下に散乱した。先ほど席を立つときに持ち物をすべて書類ケースにしまわず無精したのが、災いした。おまけに、ペンケースのファスナーまで閉め忘れていた。慌てて落ちたものを拾い集め、書類ケースの中にぐちゃぐちゃに突っ込んだが、今度は、ペンケースの中に入れていたはずのUSBメモリがない。足元を見回しても、スライド式の小さな記憶媒体は、さっぱり見つからなかった。
 たとえ中身が空でも、仕事に関するものを無くしたとあっては、「忘れ物」以上に問題になる。統合情報局という特殊な職場ならなおさらだ。美紗は顔面蒼白になってテーブルの下に潜り込んだ。絨毯敷きの床に顔をこすりつけるようにして、目を凝らした。
 探しものは、床近くまである大きな幕板の、少し向こう側に落ちていた。美紗は、心の中で安堵の溜息をつくと、幕板と床の隙間から手を伸ばし、USBメモリを掴んだ。その瞬間、部屋が暗くなった。