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「かろうじて残る信仰を失えば、おまえはただの動物霊にすぎんだろうが」

優しい雰囲気を一変させた瑞の声は、ぞっとするほど冷たかった。

「おまえをここから追い出すことなんてたやすいんだぞ。みていろ」

瑞が、ゆっくりと右腕を伸ばす。中庭に向けて。

だめだ、と郁は立ち上がった。何をしようとしているのかはわからないけど。だけど、これは瑞のやり方に反することだとはっきりわかったから。瑞の腕を掴む。

「ねえ須丸くん落ち着いて」

怖い目で睨んでくる。こんな視線を向けられたのは初めてで、だけどこれを止めるために自分は瑞についてきてと乞われたのだ。引き下がるわけにはいかない。

「こんなやり方、違うよ。このまえ、神末先輩に言ったでしょ？見知らぬ人が自分の家に雨宿りに来たら、刃物持って追い返すかって。違うよね？」
「……」
「須丸くんのしてることは、軒の下を貸してあげて、タオルを貸してあげて、雨宿りさせてあげることだったはずだよ。無理やり追い出すこと、しちゃだめだよ！」

瑞の表情が、ゆっくりと戻っていく。いつもの、静かな雰囲気とともに。

「…そう、だった」
「うん、そうだよ」
「そうだったな、ありがとう」

そうだった、と噛みしめるように繰り返す。そして、すうっと息を吸って中庭に向き直った。