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バラードが嫌いな彼女は

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「彼女が篠崎君の代わりに入った林田君だ」

 そういって紹介された女のコは私よりも幾つか年下に見えた。
 全く臆びれた様子も無く堂々としている。
「しばらくは足を引っ張ってばかりだと思いますが、頑張って少しでも早く仕事を覚えますので、どうぞよろしくお願いします」
 両手を膝の前に揃えた深深と頭を下げるお辞儀を見れば、誰もが好感を持ったに違いない。
「吉田君、面倒を見てあげてくれ」
「はい、わかりました」
 名前を呼ばれた吉田君というのは、四十代前半の女性だ。
 いつも笑顔を絶やすことがなく、仕事も真面目で熱心。間違うということがなく、周りの信頼も厚い。敢えて欠点を挙げるならば、化粧が濃いことだろうか。
 朝礼が終わると、全員がそれぞれの持ち場へと移動を開始するのだが、それはいつもならばの話だ。
 今日は新人の女のコがいるために、朝礼が終わり班長が去った後でもほぼ全員がその場に残った。
 面倒を見るように言われた吉田さんと私以外の全員だ。
 吉田さんは、最初の仕事として職場全員の顔と名前を覚えることを命じたらしい。ちなみに、私は覚えていない。
 かくして、新人の彼女を囲んだ怒涛の自己紹介が始まったのだ。

 嬉嬉として話す同僚たちの顔や背中に見え隠れする下心に辟易してしまった私は、人知れずため息を吐いた。
 ふと視線を感じたが、その人集りに入り込む気などはさらさら無かったので、声を掛けられる前に喫煙所へと足を向けることにした。

 市街地から遠く離れた田んぼの真ん中にある小さな工場。それが私の職場だ。
 重い鉄製の扉を開けると、錆びた鉄同士が擦れ合う耳障りな音が響く。二十四時間体制で稼動するこの工場では、外に設置された喫煙所へと繋がるこの裏口の扉が施錠されることはない。この耳障りな音が開閉された合図となっている。
 押し開いた扉の隙間から流れ込んだ熱気に思わず顔をしかめたが、この程度で喫煙欲求が萎えることはない。
 暦は八月。季節は真夏。まだ午前九時前だというのに、夏の熱気は早起きだ。
 視界に映るのは青空と入道雲と田園風景、そして山麓。冷房の効いた部屋の中から眺めるのであれば、“夏の雰囲気”を堪能できるそれはそれは素晴らしい名景だ。