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幻燈館殺人事件  前篇

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「大河さまはお疑いのご様子ですので、私が随伴しましょう」
「それは有難い。あとは柏原さんにお手伝いをして頂きたいのですが」
「柏原、そのように」
「畏まりました」
「それと、斎藤さんと狭山さんも一度廊下へ出て頂けますか?」
「二人とも花明さまの望むようになさい」
「畏まりました」
 斎藤と狭山もそう言うと、一礼の後廊下へと出ていく。その様子を見届けると蝶子と柏原を連れ、花明は広間を後にした。

「では狭山さんと斎藤さんは食堂で少しお待ち下さい」
「分かりました」
 言われるがまま二人は食堂へと向かう。それを見届けると蝶子と柏原、そして花明の三人は少し歩いて、広間から距離をとった。十分に離れたことを確認すると花明は柏原に切りだした。
「柏原さん、何かこう……全身を包める大きな布のようなものを用意してもらいたいのですが」
「外套のようなものでよろしいですか?」
「いえ、外套というよりは体の線も消えるような物の方が望ましいのですが……。白か黒かで統一して頂けると、なお有り難い」
「畏まりました。それでは用意出来ましたら、広間の中へとお持ちすればよろしいですか?」
「いえ、広間の中には入らず、食堂へお持ちください。僕も後で食堂に向かいます。そこでこれからして頂く事を説明しますので」
「承知致しました。それでは失礼いたします」
 柏原は二人に向って一礼をすると、準備の為にその場を離れた。柏原の背中が見えなくなると、蝶子がそっと口を開く。
「ご立派な探偵振りでしたわ」
「よしてください」
「この館では九条が全て。今まであんな風に大河さまや怜司さまに言葉を返すような人、誰一人現れませんでしたのよ」
「僕だって殺人犯なんかに仕立て上げられなければ、あんな物言いしませんよ!」
「ふふっ、そう……ですわね」
 蝶子は少しだけ寂しそうに笑うと、改めて花明を見つめた。今日も青いドレスに身を包み、髪を結いあげ、姉の死を気丈に受け止めているその様は、最初に湖で会ったその時のまま、やはり美しい。
「犯人には辿り着けそうですか?」
「まだ分かりません。それより、蝶子さんにもお願いしたいことがあるのですが」
「私に?」
 蝶子の目を見つめたまま、花明はぐっと頷いた。