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一杯の水・ライジング

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 だが、計画に変更はない。
 二人で逃げよう!
「ちょっと待って! 僕のコーヒーとケーキは!? 」
 武志が抗議する。
 後でおごってやります! 店長! こいつの無念の分まで代わりに味わってください!
「待って! お話しさせて! 」
 にやにや笑いをうかべて、あの鋭い男が駆けてくる。

カランカラン

 入口のドアを開けるとなる、鈴の音。
 外は、やっぱり暑い。
「待って! 話を聞いて! 」
 今度は女の声だ。
 さっき俺の前でWIKIを見ていた人。
「レイドリフト・ワイバーン! あなたがやってる事はいけないことよ!
 異世界で戦って自分の政策を押し付けるのは侵略というのよ! 」
 すると、にやにや男が厳しい顔で突っかかっていった。
「なんだと! 彼のやっていることは、相手世界も承知している正当な行為だ!
 我が世界には異世界に関わる資格がないって言うのか!? 」
 うわあ、面倒くさい。
「武志! 飛べ! 」
 ああ、何が悲しくて男同士で手をつないで走らなきゃならないんだ。
「え? でも、どこへ? 」
「どこでもいい! お前だってこのままじゃ、もみくちゃにされるぞ! 」
 後からは諦めないオタクたちが、俺たちを追いかける。
「……わかったよ」
 武志はそう言うと、俺に追いついて背中側から脇の下に手を通し、抱きかかえる格好になった。
 
 カシャカシャン

 武志の背中から短い機械音。
 あいつの背中に仕込まれたジェットパックが、背骨に沿ったレールに導かれ、首の後ろから飛び出した音だ。
 ジェットパックからは左右に金属製の羽が伸び、ついにジェットエンジンが火を噴いた。
 武志に抱えられた俺はこれで悠々空の旅へ―。

 どすっ

 ぐふっ!
 腹に重くて硬い物がめり込んだ!
 両手で持っていた俺のカバンが、急激な加速で風にあおられた。
「あ! 痛かった!? 下そうか? 」
 心配する武志の声。
「いや、おろさないでくれ。そうだ。鍵山ダムに行ってくれないか? そこで自由研究の実験がしたい」
 本当は喫茶店で、計画をまとめてからにしたかったんだけどね。
 鍵山ダムは、この街の山奥にある水道用ダムだ。
 その下には水道水のための浄水場がある。
「うん、わかった」
 武志はそう言うと、スピードを落とした。
 代わりに半ズボンをはいた足の両太ももの皮膚が割れて、腿に仕込まれた2つのジェットエンジンが現れる。
 その噴射が浮力を生み出した。
 そのままゆっくりと、山へと向かう。
 ああ、いい風だ。

 ふと、下の商店街を見てみた。
 学生を見れば、片端から写真を撮るやつがいると聞いたことがる。
 そいつは後で異能力者だとわかれば、週刊誌だかどこかに売りつけるという、悪徳カメラマンだ。
 他にも異世界人や異星人でも撮りまくるらしい。
 ま、ここから見てわかるわけないか。

************************************

 今から20年前、世界は不思議で溢れた。
 世界中の人間の中から、それまでに知られていた物理法則とは全く違う現象を起こす者達、異能力者が現れた。
 なんでもない人が突然、異能力を得たパターンもあるが、俺は生まれついて能力を持っていた。
 当然、世界中が大混乱。
 犯罪発生率はうなぎのぼり。紛争も激化の一途をたどったそうだ。
 だが、思わぬ喜びもあった。
 先にそのような異能力を利用していた異世界の住人がこっちに興味を持ち、使者がやって来るようになったのだ。
 武志が今使っているサイボーグの体も、そうした世界との協力の中で造られた。
 骨格はチタン。エネルギー原はコメなどの炭水化物を使った燃料電池と、人口内臓による食物消化の併用。
 これがなければ、こいつの命は2年前に異世界から怪獣が攻めて来た日に終わっていただろう。
 そんな異世界の協力もあり、日本政府は異能力者たちを集めた研究機関を作りあげた。
 今左側に見える山を、ふもとから頂上近くまで、らせん状に囲むように建物が並んでいる。
 緑の葉が茂る桜の木に囲まれた、幼稚園から大学院までそろった超次元技術研究開発機構。
 通称、魔術学園だ。
 その周辺は日本有数の、異世界人や異星人がいる地域になった。
 治安は……まあまあかな?

************************************

 まあ、それはそれとして。
 俺達は鍵山ダムにやって来た。
 ダムのてっぺんは一般に開放されていて、それなりにカッコいいデザインの手すりが並んでいる。
 来てよかった。
 ここに来るのは、小学校の時以来だ。
「僕は時々来てるよ。防犯パトロールでだけど」
 俺を下すと、武志はジェットをしまった。
 外れた皮膚はごく小機械の集合体、ナノマシンで作られている。
 傷は残ることなくふさがった。

 このダム、前に来た頃はできたてで、コンクリートも真っ白だった。
 今では隙間にゴミがたまり、黒ずんでいる。
 道路沿いの草は真夏の日を浴びて伸び放題。
 道にアスファルトの隙間があれば、そこまで草が生えている。
 誰も来ていないことは無いのだろうが、何となく物悲しい雰囲気だ。
 
「で、どうするの? 」
「ダム湖に超濃度細胞水を投げ込んで、性能を試してみる。
 風呂では水が少なすぎたし、学校のプールでは怒られるし」
 まずは今日の日付と時間、それに気温だ。
 ノートに書き込む。
「7月27日。温度計は……」
 書き込みが終わると、ポケットから硬い粘土状になった水を取り出した。
 この連日の暑さでダム湖の水は減り、それまで水に隠れていた草木が生えていない山肌が見えていた。
 ダムの反対側、堰の口から出る水も、ちょろちょろだ。
 それでも、ダム湖には人口2万人を支える水がある。
「凍れ! 」
 そう念じて細胞水を投げた。
 投げる直前に粘度を消した水は、バラバラになって湖に落ちていく。
 そして投げ込んだ後から瞬時に凍り始めた。

 パキッパキパキ
 
 氷同士がくっつき、それでも氷結が止まらないため砕けて散らばる。
「ふ~ん。北極の氷山みたいだ」
 武志、なかなか風流な事を言うな。
「南極だと大陸の上を氷が滑るから、真っ平らな氷山ができる。
 でも北極に大陸は無い。海水が凍ってできるから、あんな風にとがった氷になるんだよね」
 そうそう。と相槌を打ちながら、俺はカメラで湖が凍りつく様子を撮影していた。
 どれだけ凍ったか、正確に測れればいいのに……。

「あれ? なんだあれ? 」
 湖の奥、まだ凍っていない深みで、水の青さが歪んで見える。
 その歪みが、俺の氷に向かってきた。
 そして氷の下に潜り込むと、すごい力で持ち上げ始めた!
 
 バキッバキバキ!

 氷を割り、突き出した物は緑色で、直径1メートルはある長い蔦だった。
 その表面はトゲで覆われている。
「あ! 何するんだよ! 」
 何本も現れた緑の蔦は、せっかくの氷を堰の口から捨てやがった!
「誰かが先にここで自由研究してたのかな? 」
 武志が気の毒そうに声をかけてきた。
「俺、こんな目にあわされるほど悪いことしたか!? 」
作品名:一杯の水・ライジング 作家名:リューガ