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意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編

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春の片想いは残酷なり


桜が舞い落ちる校庭のベンチに腰掛けた君の姿が僕の視界に映った。華奢な身体に、艶やかな黒髪。ライムグリーンのイヤホン。MDプレイヤーで音楽を聴きながら本を読んでいる。けだるいくらいのおだやかな春の風は彼女の髪を靡かせていた。僕は無意識のうちに彼女のなかで鳴り響いている音楽と君のなかで流れている物語を無意識に想像してしまった。僕は首を振り、君から僕へと流れてくる仮想の思念を振り払った。僕は彼女の時間と交わることなどきっとないのだ。彼女の好きな音楽も、彼女の好きな本も僕の時間と独立して存在する。僕はスクールバッグを脇に抱え、校門へと向かった。しかし、その瞬間、彼女がこちらを振り向いた。彼女の目が僕の目を捉えた。時間が、止まった。そんな気がした。いや、あるいは、時間がゆっくりと逆戻りしたのかもしれない。舞い落ちる桜の花弁がゆっくりと舞い上がっていくような奇妙な錯覚がした。君はイヤホンをゆっくりと外し、こちらへと歩み寄ってきた。その理由はまったく分からない。彼女とはこれまでに一度も話したこともないのだから。僕は目には見えない力に拘束されていた。身体が動かない。彼女はこちらにゆっくりと近づきながら、僕の目の前で立ち止まった。そして、僕の前で人差し指を立てながら、君は小さく声を発した。