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大坂暮らし日月抄

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 出雲街道は、姫路から西国街道に入る。西宮で道は別れ、中国街道となる尼崎へ向かい、大坂へ到る。
 この道を通過するのは、三度目である。
 一度目は、藩を出奔した時。いつ追手が来るか、びくびくしながら出来るだけ長い道程を移動し、宿場のはずれにある、寂れた木賃宿を探し当てて、投宿した。食事はつかない。

 二度目は、わき目も振らず出来るだけ長い道程を歩き、人々の窮乏に対し、無力な己を痛めつけたいような気持ちもあったが、それでも少しましな宿を求めた。米が手に入りにくい時でもあり、なんらかの食事が提供されることを確認した。

 今回は、わずかではあるが路銀を賜り、餞別まで受けた旅である。気持ちに余裕が生まれ、道中、神社に立ち寄って、藩の安寧を願った。藩のお役にたてる喜びとともに、大坂で世話になった人々の役に立ちたい気持ちが、徐々に膨らんでくる。
 中国街道からは、大坂城天守閣が常に遠く望まれていたが、尼崎辺りまで来ると、その威容が、安定した徳川幕府の威厳となって圧倒し、気持ちを引き締めた。

 洗心洞門下の面々は、今回の大飢饉に対する幕府の無策を憤ったのだと聞く。だが、無謀に過ぎた。生活に苦しむ市井の人々を巻き込み、一層厳しい暮らしを強いるだけの騒動だったのではないか。
 洗心洞門下生として誇り高き、与力の瀬田様は。そして、守口村の白井孝右衛門は。
 気は逸る。口入屋九兵衛の、そして、源兵衛裏長屋の、みんなの安否も気になる。
 大坂城を目指して、歩みを速めた。
作品名:大坂暮らし日月抄 作家名:健忘真実