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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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気持ちのままに

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名医になるまで



 去年の12月、今まで入れていた差し歯が取れてしまい、新しい差し歯を入れることになった。40年来通っている歯科に行くと、女医さんがいた。
 まだ30歳代台に見えた。僕は少し不安であったが、いつもの先生が、仕上げの時は立ち会うものだと考えていた。ところが先生はお亡くなりになられたことが分かった。
 4本の奥歯であるから、無くなると、正月の料理もかむことができず、ほとんど旨さを感じなかった。片方の歯のほうだけでは、舌をかんでしまうことが度々あって、その痛さが、恐怖であった。
 1月の中頃差し歯を入れたが、最初からかみ合わせが変な感触であった。
「しばらく様子を見てください」
 ご飯を食べてみると歯茎が痛い。1日我慢したが治らないので、翌日予約なしで歯医者に行くと、1時間近く待たされた。
 あたるところを削るとき、差し歯だけでなく、健康な歯を削り始めたので
「それは止めてください」
と言った。
「入れ歯は硬い金属で、なかなか削れないので」
と弁解した。
 これだけはっきり言う患者は少ないのかもしれない。
 それから半年がたったが、いまだにうまくいかない。25万円をどぶに捨てたような気持になったが、庶民には大金である。
 僕は気持ちを変えて、未熟な先生のために大いに、注文を付けて、この差し歯が役に立つまで通い続けようと思った。
 そのたびに費やす時間とお金は、自腹と言うのはなんとなく納得しがたい。これが熟練した医師と経験不足の差であるのだろうが、後者を選んでしまうと後悔ばかりが残ってしまう。
 結果的には下手な医師のほうが、治療費を稼げてしまう。このことは何とかならないのだろうかと、疑問を持ちながら、当てのない治療を続けている。

作品名:気持ちのままに 作家名:吉葉ひろし