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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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気持ちのままに

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沈んでいる言葉


 温厚な妻が「馬鹿にしないで」と怒った。テレビ番組のクイズに答えられなかったので、私が「こんなやさしい問題が」と言ったからだ。歴史の問題で中学生で習う事柄であった。
「今晩はあなたが夕食を作ってください」
意外なしっぺ返しだった。私が出来る料理は、カレー、卵焼き、肉の生姜焼きと言った簡単なものだ。
 料理しながら、軽いつもりで言った言葉だったが、妻の気持ちの中には、きっと今までは言えなかった言葉が沢山あるのかもしれないと思った。
 心の中に沈んでいる言葉。私に対して吐き出せなかった言葉。鎖につながれている言葉。
 ジャガイモの皮をむく手つき、みじん切りに玉ねぎを切る遅さ
「下手くそ」
きっと言いたいだろうが、言ったことは無かった。料理する回数が違うことを知っているからだろう。そんなことで言い争いになることを避けたのだろう。
 沸騰したなべ底から、ジャガイモが浮き上がって来た。妻を本当に怒らせたら、涼んでいる言葉が出てきてしまう。私は妻に対してもう少し、言葉を選ばなくてはいけないと反省した。
作品名:気持ちのままに 作家名:吉葉ひろし