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鐘の音が聞こえる

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「……お墓参りってさあ、なんでするのかな?」

 テレビでテノール歌手が歌っているのをボンヤリと見つめながら私が呟く。
 私は高校生くらいからお墓参りというものにほとんど行ったことがない。親戚の法事に何度か出席したことがあるくらい。
 それに対して、彼は今でもお盆になると必ず実家に戻って墓参りに行っているのを私は知っていた。

「まあ、自分の家のお墓参りだったら、ご先祖様に対して感謝の気持ちを示す行為……かな? 僕らがこうして出会えたのもご先祖様のおかげなんだし」
「そりゃそうだけど、顔も知らないんだよ? そんな形式的なことに意味があるとは思えない。私だったら全然知らない子孫に手を合わせられたって、べつに嬉しくないもん」
「うう〜ん……でも、今は知っている人だってお墓に入ってるでしょ? 親戚だけじゃなくてさ」
「だって、お骨は入っているけど、その人の魂が居るわけじゃないんだよ。あんなの拝んでいる人の自己満足でしょ?」
「いいんじゃないかな、自己満足で。お墓で自分の近況とかを報告したりして心が少しでも安らげば価値ある行為だと思うけどなあ」
「私はお墓参りで心が安らぐとは思えない。その相手が自分にとって大事な人であればあるほど」
「だから、君はお墓参りに行かないんだね」


 相変わらず彼は笑顔を見せていたけど、私はちょっと目を逸らしてしまった。


 私にとってお墓参りとは、その人の 死 を確認すること。
 だから、行けない。
 以前、親友の由美子が言っていた。「沙希が来てくれたら、きっと喜ぶよ」って。
 
 でも、そんなわけはない。


作品名:鐘の音が聞こえる 作家名:大橋零人