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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 上(5/5)

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「東の連中は、大統領と手を組んだって聞いたわ。もうオアシスも街も放棄して、首都に黄金の家を用意されたって」

 サッタは鼻で笑った。

「黄金の家だって! ここに泉があり、ここになつめやしがあり、ここに永遠の乙女が居るのに!」

 茶杯を仰ぎながらも、妻の手を握ってやる。
 俺が守ってやる。
 俺が連れてってやる。お前の行きたいところまで。

「貴方が心配」

 パティマは両手で握り返して来た。

「大丈夫だ。天の下すべてはあの慈悲深いお方のものだ。それに、この街には改悛した守り神だっているからな。なあ、老い知らず」

 脇で寝そべっている犬に、蜂蜜に浸したパンの欠片を差し出してやる。 
 犬は跳び起きると、尻尾を振って吠えた。

「まあ、老い知らずったら」

 若い夫婦は笑った。
 瞬間、白い光が辺りを覆った。
 夫婦は、何なのかを考えるよりも先にお互いに手を伸ばしていた。