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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 11

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でもね、と寂しそうな顔を一遍させ、氷雨は笑って清瀬を見上げた。

「あなたがくれた言葉があるから、旭はもう二度と、生きることを諦めないと思う。自分の人生を大切にすると思う。だから、だからね」

清瀬さんありがとう。再び氷雨は言った。
少し、声が震えていた。なんと答えればいいかわからなくて、清瀬は黙って頷いた。鼻をすすっているところを見ると、泣いているのかもしれなかった。

「ねえ清瀬さん」
「うん?」
「前に梢ちゃんにね、結婚式の写真見せてもらったの。旦那さんとの」
「ああ。俺の部屋にあったやつか」

そう、と彼女は頷き、少女のように両頬を手で包み込んだ。うっとりとした目が清瀬を見る。

「綺麗だったなァ~。わたしも、あんなウエディングドレス着たいなって思った」

清瀬には女性のことはよくわからないが、ウェディングドレスには特別な思い入れがあるものなのだろう。

「…わたしあのドレス着て、清瀬さんのお嫁さんになりたい」
「えっ」

なんと。プロポーズされるとは思ってもみなかった。

「お、俺はダメ男だ。こんなだし。もっといいのがいるから…」
「ほかの人なんてイヤよ!」

本気で言うのか、と清瀬は突っ込む。しかし彼女は本気のようだ。

「清瀬さんほどいい男なんて、もうどこ探したっていないもん!清瀬さんと別れちゃった女たちは、ほんと見る目ないと思う!」
「わ、わかった、わかったから!」

清瀬の肩をガクガク揺さぶってまくしたてる氷雨。ありがとう、そこまで言われたらもう十分です。思わず笑みが零れた。

「…でもそんなこと叶わないって、わかってるんだ」
「氷雨」
「わたしは所詮、旭の心の中でしか生きていけない。旭が母親を必要としない強い子になったら、もう消えちゃうと思うの。今でさえ、もう自分の存在がおぼろげなんだもん」

彼女もまた、ほかの人格と同じ。与えられた役目、存在理由を失えば、もう心の海へと帰っていくだけなのだ。こうして独立した思考を持ち、夢があって、一人の人間と何ら変わりないのに。

「だから、忘れないでいてね」
「……」
「わたしのこと、ときどきでいいから思い出してね」
「…わかったよ」

清瀬は、気の利いたことなど一つも言えない自分に苛立つ。震える細い指先を握っていてやることしかできない。

「…これでもう充分だよね」

氷雨は一言だけ呟いて、ゆっくり身体を離した。はあー、と長く息をついてから、彼女は何かを断ち切るように立ち上がった。

「もう、この話はおしまいっ!ごめんね、困らせちゃって」

倒れた椅子を戻しながら彼女は言った。

「…一弥を、迎えにいってあげてくれる?」
「そのつもりだよ」
「ありがとう」

氷雨が笑う。あたりが徐々に暗くなっていく。瞼が次第に重くなる。

行かなくては。一弥のところへ。


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作品名:慟哭の箱 11 作家名:ひなた眞白