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The SevenDays-War(黒)

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(三) 契約と願望


 ルドラを乗せた黒天馬は地上を疾走する。
 飛んだ方が早いが、背の主が地上の疾走を好むことを、黒天馬は知っている。鞍、鐙、馬銜、手綱、そのすべてから伝わってくる反応がそう言っている。鞍上の主が気持ち良いと、黒天馬も気持ち良く走ることができる。
 そうして得られる一体感。至幸の瞬間。本来の姿ではないことなど些細なこと。
 黒天馬は、普通の馬が半日という時間を費やすことになる距離を、僅か一時間で駆け抜ける。空を翔るときはもっと速い。
 黒天馬といえども、やはり馬。大地を蹴って進む感触は、大空を往くときと比べるべくもない。

 人間の匂いを嗅ぎつけた黒天馬は、至福の時間の終わりを察する。続いて、全身の馬具を通して鞍上の主がそれに気が付いたことを知る。黒天馬は、最後の一完歩を全力で踏みしめ、高く高く飛び上がった。
 全力で駆けているときだけは、千年前と何も変わらない。
 共に千年を駆け抜けた者だけが知り得る感覚。馬具を通して伝え合う会話。鞍上の主が求めているものは、それと同じ類のもの。
 剣を手に、刃を向け合った命のやりとり。戦いを通して伝え合う会話。だがそれは、千年の昔に失われてしまった。

 エルセントからガルガンタットへと伸びる街道。
 その西側の荒地は、北へと進むにつれて徐々に丘陵地帯へと姿を変える。
 ルドラは丘の頂上に黒天馬を進め、遠くに見える建築物の影にじっと視線を送る。そこは、エルセントとガルガンタットの間にある、最初の宿場町だ。
 時刻は夕刻。太陽が西の地平に差し掛かる夕食時。しかし、町からは炊き出しの煙がほとんど上がっていなかった。
 エルセントから訪れる宿泊客は、日没直前から夕刻以降に到着する。そうして翌朝の早い時間には出発してしまうため、昼間は人が少ない。町中から炊き出しの煙が立ち上るのは、もう少し遅い時間帯になってからだ。

 ルドラが追う波動は、唐突にその強さを増した。急を要する事態であると判断したルドラは、黒天馬を走らせて北上を開始した。しかし、現在の波動は元通り落ち着きを取り戻し、緩やかに北上を続けている。
 その気になれば、すぐに追いつくことができる距離にまで近づいていることもあって、ルドラは黒天馬の足を止めたのだ。
作品名:The SevenDays-War(黒) 作家名:村崎右近