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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 10

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「…冗談でしょう、殺されそうになっていたのはわたしですよ!」
「ナイフを突きつけて脅してどの口が言う?あんただけは絶対逃がさない。沢木!」
「はい!」

沢木が武長を引っ張り、旭から引きはがした。捜査官らが駆け寄り、身柄を確保する。

「強姦、脅迫、横領、背任、ずいぶんあくどいことしてたみたいだな、そっち方面からも叩かれることになりますので、お覚悟を」

それは…一弥や芽衣が長年密かに調べていた武長の罪だった。いつか恐喝の材料に使えると踏んでいた事実。清瀬は芽衣との接触でそれらも調べ上げて、証拠をつかんだのだろう。

「大丈夫か、」

へたりこんだ旭のもとへ清瀬が駆け寄ってくる。困ったような顔をして。

なんで、どうして。

「…なんで来るんですかッ!!」

怒鳴っていた。我知らず。

「あなたにはもう、二度と会わない覚悟で飛び出してきたのに…」

俺が、どんな思いであの家を出たのか、あなたは知らない。

「そりゃ来るよ」

清瀬は静かな声で紡ぐ。いつも通り、何も特別なことなんてしていないとでもいうように。そして腕を掴んで、助け起こしてくれた。夢ではないかと、旭は思う。

「約束したからなあ」

笑う清瀬の顔を見て、全身が弛緩する。このひとは、本当に――

「くそ、離せ!あのガキが悪いんだ!俺を逮捕だと、ふざけるな!」

沢木ら捜査員に捉えられ、わめきたてている武長の声。びくりと肩が反応してしまう。

「どうせ親を殺したのもそいつだろ!人殺しだ、逮捕するならそのガキだろうが!」

大人しくしろ、と怒鳴る捜査員を押しのけ、武長の目が旭を見る。蛇のようなおぞましい目で。


「親を殺して満足か?人殺しめ。俺を逮捕したって、汚れきったおまえの傷はきえんだろうよ!」


がちん、と大きな音が頭の中に響いた。これは、人格がスイッチする音。


一弥だ!


作品名:慟哭の箱 10 作家名:ひなた眞白