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反骨のアパシー

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「この梅寮には合計で十八名の男性の知的障害者が生活しています。定員は二十名なんですが、二つのベッドは短期・一時利用に確保してあるんです。この梅寮は主に身体障害と重複している利用者がほとんどです。まあ、身体的にも重度の障害者が多い。在宅では生活困難な方たちです。年齢は若くて二十代、高齢の方で六十五になります。親御さんも高齢になってきていてね。帰宅もままならないのが現状です。まあ、利用者の名前や特徴はおいおい覚えてください」
「はあ、私は施設の勤務なんて初めてなんで、よろしくお願い致します」
「これから、辞令を持って前の職場に挨拶に行くんでしょう? その前に、昼食介助の時間なので、ちょっと見ていきますか?」
「はあ、よろしくお願い致します」
 松田寮長は梅寮の食堂に栄太郎を案内した。
 そこにいたのは、車椅子に乗った者、歩行機を脇に置いている者、奇声を発しながら一心不乱に食事に齧りついている者など、千差万別であった。数人の職員が食堂内を忙しく回りながら食事介助をしている。
「何なんですか、今日の食事は?」
 栄太郎は思わず尋ねた。尋ねざるを得なかったのだ。利用者のトレーに乗っているのはカレー皿でそこにご飯からおかずまで一緒くたに混ぜられていた。
「今日はサバの味噌煮です」
 職員の一人が答えてくれた。しかし、サバの味噌煮の原型は留めていない。それは刻まれているのだろうが、他のサラダと思しきおかずと混ぜられていたのだ。
 この施設に漂う悪臭と共に、その食事がえらく不味そうに栄太郎は感じた。
(食事と言うより、家畜の飼料みたいだな……)
 その飼料を利用者の口に運ぶ職員。そして自力で食べられる者は、貪るように口に運んでいた。
「まあ、大きい声じゃ言えないが、食事を混ぜるのは人権上、ちょっと問題あるんだよね」
 松田寮長が渋い顔をしながら言った。
「でも仕方ないんだ。嚥下に問題がある人も多いし、食べやすくする工夫もあるんだよね。それに一品一品食べさせるだけの、人手がないんだよ」
 それに対し、栄太郎は何も言えずにいた。
「ちょっと、寮内を回っていくか」
 松田寮長が先導して歩き出した。
 寮内はかなり汚れが目立っていた。各利用者は個室と二人部屋に別れていた。寮長の話では、これでも改修工事をしたのだという。
作品名:反骨のアパシー 作家名:栗原 峰幸