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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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「ご苦労様でした」
 貴美子はねぎらいの言葉を一言春樹に掛け、早速こな餅一つ頬張る。春樹はそれをほほえましく見届け、一つ手に取ってみる。
 餅の表面を覆った山栗の粉、色鮮やかに黄色。二つに割ってみると、赤米のためか中は薄紅。それから口に入れると、しっとりとした自然薯の粘りがあり、アケビの清楚な甘さが口の中にふわりと。この世のものかと思うほどの貴賓あるテーストだ。
「これぞ卑弥呼が愛したスイーツだ」と春樹は涙が出そうに。貴美子も古代餅を食べ、「美味しいわ」と満面の笑みを浮かべている。春樹はそんな貴美子を見て心に誓う、貴美子とこんな幸福感を分かち合い、ともに人生を歩んで行こうと。

 そんな感動の一時だった、貴美子が妙なことを呟く。「懐かしい味だわ」と。
 それから春樹を真正面に見据えて告げる。
「2、000年前、覇留黄(はるき)という召使いがいたぞえ。その男は毎日このスイーツを運んで来た。よ〜く聞け、現代を生きる春樹も、私への生涯のご奉公……、その命を掛けて果たされよ」
 こんないきなりの命令に、ううううう。春樹は喉に餅が詰まりそうになった。
 これは貴美子の冗談か、それとも卑弥呼が乗り移ったのか? それは不明。

 だが、古書大好きな女に、妖術を掛けられたように、戸惑いもなく現代の春樹は返答してしまうのだった。
「はっはー、貴美子女王さま、我が身一生を捧げます」