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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 それから1週間後のこと、貴美子がケイタイの向こうから話す。「私、山に行きたいの。ご一緒してね」と、ほぼ強制的に。
 女がだいたいこんな誘いをする時は、なにかが危ない。春樹はそんなこと百も承知。だが惚れた弱みか、「ああ、いいよ」と軽く返す。

 それでもちょっと気になる、「何しに?」と訊くと、貴美子が甘い声で囁く。
「春樹と一緒に、アケビに山栗、それに自然薯(じねんじよ)を採りに行きたいの」
 春樹はこれで覚悟を決めた。要は汗水流す労役だと。そして予想は的中し、まったくの肉体労働だった。例えば自然薯なんて穴を2メートル掘らないと採れない。それでも貴美子のため春樹は頑張った。
 そしてアケビ10個、山栗500グラム、自然薯1本の収穫で、まさにヨレヨレ状態で貴美子のアパートへと引き上げた。

「春樹、よくお仕事してくれたわ。今から赤米を炊いて、一緒に美味しいスイーツを作りましょ」
 そう宣言した貴美子、春樹は何のことかまだわからない。
 それを察してか、貴美子は「魏志倭人伝に、一人の男子が女王の食べ物の世話をしてたとあるでしょ。その外伝の裏話に、女王の好物とレシピが載っていたのよ。それを現代文に直しておいたわ」とノートを手渡す。
 春樹がそれを開くと、メモられてあった。

『卑弥呼のスイーツ  → こなもち』

 生地   古代紅米→ 赤米   水多めで炊き、炊き上がったらすぐに餅つき
 つなぎ  自然生 → 自然薯  すり下ろし、粘りで餅をつなぐ
 甘味   木通  → アケビ  種を取り去り、甘汁だけを餅に加える
 風味   山栗子 → 柴栗   茹で、渋皮を剥き、乾燥させ粉にする

「すべて山の幸、古代人はこんな素材でスイーツを作っていたのか」
 春樹は感心するばかり。しかし、貴美子は「さあ、お仕事よ」とまたまた労働の強要だ。それからソファでゆったりの寛ぎタイムへ突入。

 それでも春樹は、どんな卑弥呼のスイーツが出来るのかなと興味が湧き、餅をついたり、芋をすったりの大活躍。結果、ここに古代スイーツが見事に蘇った。