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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 翌朝、良樹が目を醒ますと、トントンと漬け物を刻む懐かしい音が聞こえてくる。綾音が朝食の用意をしてくれているのだ。起き上がって行くと、テーブル上にお握りが並んでる。
「お兄ちゃん、途中でお腹空くでしょ」
 良樹は「その通りだよ」と答えたが、綾音にあとの言葉が続かない。
 綾音にはわかってる。良樹には都会での生活があり、これ以上は引き留められない。結局は、そんな擬似的な兄と妹なのだと。

 綾音が駅まで見送りに来てくれた。良樹は後ろ髪を引かれる思い、それでも時間は止まらず、ガタンゴトンとたった1両だけのディーゼルカーが入って来た。良樹は心の乱れを抑え、乗り込み、ホームにいる綾音と向き合った。
 ひょっとすれば、これが二人の永遠の別離(わかれ)になるかも知れない。そう予感する綾音、涙が止まらない。

 無情にもギーと鈍い音を発しながら、ドアーが閉まり始める。
「お兄ちゃん……」
 心悲しげに呼ぶ綾音、確かに良樹に再会できたことが嬉しかった。だが、この別れが途方もなく辛い。

 今、ドアーがピシャリと閉まりかける。その瞬間だった、良樹が思い切りドアーを開けた。それから綾音へと手を伸ばし、綾音を掴み車内へと誘い入れる。
 綾音は驚く。しかし、こんなことになることをずっと待っていたのかも知れない。その綾音の期待に応えるように、良樹が力強く言い切る。
「綾音、僕はもうお兄ちゃんじゃないよ。僕は――夫だよ」

 綾音がこくりと頷く。
 その決意を確認した良樹は、兄ではなく夫として、この世界で一番の愛をもって妻を抱き寄せる。
 そしてやっぱり……、綾音のほっぺをコチョコチョとくすぐってしまう。これに綾音は表情を和らげ、幼かった頃と同じように、安堵した笑みを零すのだった。

  (*^o^*) ニコニコッ、と。