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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 綾音と何度も呼んだが応答がない。良樹は靴を脱ぎ捨て、襖を開けた。するとそこに、仏壇の前に座り込んだ綾音がいた。振り返りもせず、いきなり涙声で訴えてくる。
「お母さんが徘徊して……、その日、私探しに行けなかったの。そしたら川に落ちてて、私が……、殺してしまったのよ」
 良樹は綾音が不憫でならない。とっさに駆け寄る。
「もういいだよ、綾音。お母さんが苦労を掛けまいと、命を絶ってくれたんだよ」
 音信不通だった二人の10年、あっという間にどこかへ消えてしまった。

「お兄ちゃん、ありがとう」
 綾音は少し落ち着きを取り戻したのか、良樹に向き合った。くりくりした目の少女はもうそこにはいなかった。泣きはらしてはいたが、涼やかな瞳を持つ女性が良樹を見詰めていた。

 だが、いかにあろうが、二人の関係は男と女ではない。どこまで行っても兄と妹だ。そのためか、幼い頃一緒に昼寝したように、その夜良樹と綾音は一つの布団で寝た。
 良樹は妹の不安を消し去るために、ずっとずっと愛おしく抱き締めた。その甲斐あってか、やっと安堵したのだろう、綾音からスースーと穏やかな寝息が聞こえてくる。