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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 しかし、その夜、郁子は忽然と消えた。
 一体どこへ消えてしまったのだろうか? もちろん父は捜索願いを出し、山や川も捜した。しかし見つからなかった。

 近所で噂が流れた。郁子は神隠しに合ったのだと。
 母は郁子を叱ったことを悔い、その辛い思いを抱いたまま逝ってしまった。

 洋一は、あの時遊んでやった郁子の嬉しそうな顔を思い出し、この雅(みやび)な雛壇の前で男泣きをしてしまったのだ。
 こんな胸痛むお雛さん、もう二度と飾らないと決めていた。しかし、母が旅立つ前に残した言葉を思い出した。
「郁子ったら、まだお雛さんと遊んでるんよ。だから洋一、連れ戻してやって」
 母の言いたいことがわからない。「連れ戻すって、どこから?」と洋一が訊くと、母は伝えてきた。
「あの時の、3月3日からよ」と。

 最近になって、その意味が閃いた。
 郁子はお雛さんと遊び、楽しくて、50年前の3月3日を超えられず、その日に取り残されたままになっているのだと。

 洋一は赤い毛糸を手にし、たかたか指を差し込んで山を作ってみた。
 そう言えば、あの頃、この簡単な山を作って郁子に差し出すと、細い指を絡ませて、器用に取って行った。洋一は不器用で、そこから何の形も取り戻せない。「お兄ちゃん、はよ、取ってよ」と妹は急かし、可愛く笑っていた。
 洋一はあの頃と同じように、両手の中にある山を前へと突き出した。するとどうだろうか、糸に指を絡ませる微かな感触を覚えるのだ。
 洋一は反射的にそれを辿り、きっとそこにあるであろう手首、それを思わずぎゅっと掴んだ。
 細くて柔らかい腕の温もりがある。明らかに郁子だ。
 洋一は思い切って引っ張り上げた。すると驚愕! 郁子の上半身が目の前に現れ出てきたのだ。