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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 徳山女学校の教師時代に、二人の女子生徒を孕(はら)ませて、二度の結婚離婚を繰り返し、私が三人目の妻。挙げ句の果てに12人の子供を産まさせて、本人はずっと鳴かず飛ばずの歌人。それでも無邪気に遮那王と詠み、まるで満足げだ。本当に変わった人だなあ、と。
 志ょうはこんな思いを巡らせながら、短冊を夫から取り上げた。そしてやおら筆に墨を付け、あとはさらさらと。

『何となく 君にまたるる ここちして いでし花野の 夕月夜かな』

 志ょうは達筆で、与謝野晶子と名を入れた。そして「どうですか、これ?」と寛に手渡した。
 歌人・与謝野鉄幹が「君、さすがだね、いい句だよ」と褒める。そんな言い回しに、志ょうはくやしい思いがする。寛のことを、また詠んでしまったわ、と。

 そんな男と女の隙間に、色づいた紅葉がハラハラと舞い落ちてきた。志ょうは五(い)十(そ)路(じ)の指でそれを摘まんでみる。そしてボソボソと。だが心の叫びを……。
「今日は鞍馬寺で一杯のパワーをいただきました。だから、またたくさんの歌、詠ってみとうございます」
 これに寛は達観したかのように微笑み、「そうしなさい」と優しく返す。

 しかし、寛も鞍馬寺のパワーを充分授かったのだろうか、天馬空をゆく、されど悩める若人の歌を脳裏にと蘇らせ、まるで自分の生涯がそうであったかのように、一節吠えてしまうのだった。

『われ男(を)の子 意気の子名の子つるぎの子 詩の子恋の子 あゝもだえの子』と。