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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 寛と志ょうの二人はここでパワーをもらった。そしてさらに奥へと。
 そこには義経の脊比べ石がある。それを見ながら木の根道を歩き、奥の院魔王殿へと辿り着いた。ここは650万年前に金星より魔王尊、サナト・クマーラが降臨したとされている。このようなミステリーの聖域で、二人は霊験をあらたかにし、貴船へと急な坂を下った。

 清流に迫りくる紅葉が真っ赤に色づき、まことに美しい。それに心が癒やされたのか、茶屋で一休みする寛と志ょうは一服の茶を楽しみながら、穏やかな時の流れに身を埋没させている。それを破るかのように志ょうが声を掛ける。
「寛さん、ここらでどうですか、記念に一句詠んでみませんか?」

 結婚してもう31年の歳月が流れた。50歳を超えた志ょう、20歳の時に堺の旅館で行なわれた歌会で寛に出逢った。そして不倫となり、前妻の竜野からこの男を略奪した。
 そんな夫と歩み重ねてきた幾星霜、夫はもう還暦に近い。最近どうも弱ってきたようだ。ひょっとすれば鞍馬山に登れるのもこれが最後かも知れない。そんな心の内を隠し、「一句詠んでみませんか?」と促してみたのだ。

 妻からいきなり勧められた寛、「どうだろうかな」と躊躇しながらも、懐より短冊を取り出した。そしておもむろに……。

『遮那王(しゃなおう)が 背くらべ石を 山に見て わが心なほ 明日を待つかな』

 寛はこう筆を走らせた。そして与謝野鉄幹と名を添えた。