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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 こんな生き様となってしまった善行、両親が名前に込めた期待を完全に裏切ったと言える。その名付け親の父は幼い頃に他界した。そして母は一年前に病に倒れ、日を置かず、陋屋(ろうおく)で寂しく逝った。
 善行は悪行に忙しく、死に目に会うことは叶わなかった。それでも母は善行にひと言のメモを残していた。
『圉』から生き直せ、と。

 圉?
 これは一体どういう漢字なのだろうか?

 思うに、口の中に幸とある。無理矢理に解釈すれば、囲いの中の幸せ、つまり小さな家でも幸福はある、それに感謝し、生き直せとの母からの伝言だと取れる。

 されども他人を騙し続ける善行、強欲な夢を見過ぎてしまっていた。一生に一度で良い、母を招いて、高級タワーマンションの最上階に住んでみたいと。これこそが母への親孝行だと思っていた。
 その母はもういない。だが夢を終わらすことはできず、詐欺で分捕った金で一室を購入した。

「ああ、少し飲み過ぎたか」
 目をこすりながらリビングへと入ってきた善行、夕べは詐欺師仲間たちが入居を祝ってくれた。その残骸が転がってる。それらを避けて革張りのソファーにどっかと座る。時計を見ると昼前だ。すぐに次の詐欺の指示を飛ばさなければならない。善行は早速スマホを操る。

 そんな時にふと横を見ると、大理石のフロアーに、直径は20センチくらいだろうか、ポッカリと穴が開いているではないか。
「何だ、これ?」
 善行は立ち上がって、中を覗いてみるが、真っ暗でよくわからない。しかし、穴の底は階下の部屋ではなく、このビルをどこまでも貫いているようだ。

「突然、こんな所に穴が開くなんて」と一旦首を傾げたが、「まっ、えっか、ここに住むのは長くて一年、穴なんかに興味はないよ」と元へと戻る。
 同じ場所に長く住めば居場所がバレる。それは詐欺師にとって危険だ。そのため、そこそこ住めばあとはどこかへ引っ越しするつもりだ。