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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 それから10年の歳月が流れた。そんなある日、洋一から連絡があった。それは、あの時の1球を拓史に投げ直させてやりたい、だから母校のグラウンドへ出て来て欲しいというものだった。
 幸子にとってほろ苦い青春の想い出、だが今も拓史のことが好きだ。会ってみたい。そして、その心に正直に決心し、幸子は出掛けた。

 あの時と同じ炎天下のグラウンド、みんなポジションについていた。そして幸子が現れ、その顔を見るなり、すぐに洋一から声がかかってきた。
「幸子さん、審判やってくれない」
 拓史はすでにマウンドに立っている。そして大介はショートに位置取り、洋一はミットを構えている。当時の9回の裏の場面と一緒だ。
 10年経って、拓史はどんな球を投げてくるのだろうか? 幸子に興味が湧いてきた。甲子園への夢を打ち砕かれたあの1球のやり直し、だからストライクでなければならない。

 拓史が両手を大きく振り上げた。そしてゆっくりと、まるで時の流れをなぞるように、投げられた白球は緩やかな放物線を描き……、洋一がど真ん中に構えるミットの中へと吸い込まれた。
 ショートバウンドではない。美しい軌跡の一球。これは現実の世界で起こったことなのだろうか?
 幸子は目を疑い、あとは放心状態に。