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どーでもえっセイ

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こーひー



 何十……いやきっと、何百何千倍にもした写真なのだろうが、近所のローソンに、コーヒー豆を超高倍率に拡大したポスターが貼ってある。キャンペーンでも展開しているのだろう。
 豆の写真のところどころは、産地であるとか、風味であるとか、価格であるとかを訴求した文字で隠れ隠れなのだが、概ねの全体像は見える。割合8割ぐらい。
 僕は過去の人生の中で、最も集中をして、「コーヒー豆」の写真を、見た。

 シルエットは楕円に近い。ふっくらとした楕円。ハートの上半分を湖に写して、なだらかに成型したようなフォルム。中央縦に、深い深い深い溝がある。この「溝」という漢字を使った熟語に「海溝」という語があるが、珈琲豆の中央を縦断する亀裂じみた溝は、限度を知らぬ海溝を思わせるほどに、深い。それは冥府の入り口に違いなく、何者かがこちらを覗いているような気配を漂わせている。ダークダークブラウンのグラデーションに見入っていると、おっこちてしまいそうだ。
 表面は、しっとりとして艶やか。ほのかな湿度を湛えているに違いない。香りが……漂ってくる。ポスターに顔を近づければ間違いなく香ばしい香りが、鼻腔奥までやってくるだろう。それは「アロマ」という言葉で言い表されることが、適正である類の、「香」だ。鼻腔から、肺に落ち、肺胞に染み込んで、血液に含有される。脳に達せば束の間、優しいエクスタシーになることだろう。生活にこっそりと、潤いを与える程度の。

 凝視を続けるほどに、ゲシュタルトがトロけてきた。いい感じに世界観が崩壊し始める。界観が快感に誤変換される境地。たった一粒……直径で言えば僅か「50cm」ほどの豆粒が、その複雑な表層に、無数の意識とアニマを宿しているのが感じられ……惑星の質量を存在させているの、実感。

「嗚呼、私はこの惑星にこそ、本来棲むべしだったのダ」

 この豆は、「入り口」きっとトンデモナイ世界へ我々を落とし込む入り口。その証拠に大きな溝が誘っている。「深淵」こそが本体で、深淵を存在させる為に付与された輪郭がこの、コンビニのポスターに転写された豆で間違いないということで、皆様よろしいでしょうか?

 妄想から引き返し、コーヒー豆の描写を自ら読むにあたって、つくづくと思ったのだが……この豆の形って………なーんかエッチな感じがする。

2015.4.12 高知市青柳町
作品名:どーでもえっセイ 作家名:或虎