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どーでもえっセイ

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うし



「食べてすぐ横になると、牛になっちゃうよ」

 と、言われて、僕はその時、思ったのです――「牛になっちゃう」ってか?……なるほどね、と。

 つまり僕のポイントはこうだ――牛になることを、「牛になっちゃう」というネガティブなニュアンスで語ること、その価値観の押し付けに違和感を覚えたのです。どうして、もっとポジティブに考えることが出来ないのでしょうか?
 考えようによっては――食べて直ぐ横になると、「牛になることができる」のです。これにはもうカフカもびっくりのお手軽『変身』法なわけであります。

「牛になりたくなったら……食後すぐさま横になればいい」

 皆さんはどうですか?牛になった自分――その起床から就寝までのアクションについて、考えてみたことはありますか?
 女性の方、まずお化粧の必要はありません。男性の方、髭剃りや煩わしいネクタイスーツ、アイロンがけの必要もありません。ギュウギュウと満員電車に詰め込まれて、会社に行く必要はありません。今日からアナタのとっての「出社」=「牛舎を出て牧場に出る」 「仕事」=「牧草はむはむ」の楽園的連立方程式が成立すること請け合いです。

「牧草……ばっかり毎日食べるのイヤだな」

 なんて思っているそこのアナタ!
 牧草――あれはあれでチモシーやオーチャードグラスや、トールフェスク、ケンタッキーブルーグラス、ペレニアルライグラス、スーダングラス、ローズグラスアフリカヒゲシバ、ギニアグラス、モロコシ、アルファルファ、クローバー、カラードギニアグラス、クリーピングベントグラス、スムーズブロムグラス、センチピードグラス、ダリスグラス、ハイブリッドライグラス、バヒアグラス、ベルベットベントグラス、メドウフェスク、ムギ、シバ、トウモロコシなど、色々と種類があり、また一番刈り、二番刈り、三番刈り、はたまた産地や気候などにより、歯ごたえ風味がそれぞれ違う、組み合わせ実には、数百、数千種類ともいえるバリエーション豊富な食物――それが、牧草なのです。
 っていうか、実際疲れませんか?毎日毎日、何を食べるか悩み考えながら生きるのって……野菜も取らなきゃとか、魚も食べなきゃとか。もう牧草一択でいいじゃないですか。

*****

 毎朝のんびりと起る。眼に刺さる一筋の光、その光源、朝露をその尖端にくっつけて綺羅綺羅と光らせている野草に、世界の美しさを見せつけられる。朝露を、草の尖端ごと、ゆっくりと口に含む、そしてはむ、するとシャリッという心地良い音が口中に響く、「ワタシは今、朝そのものを食べたのだな」という実感。生きている、生かされているという感覚が、オーケストラのように牧場いっぱいに響き渡る。くさぐさが揺れる。風吹き抜け、弓なりの地平線、蒼い空に牛の模様のような雲がクッキリとした名実さで浮かんでいる。ああいつか「ワタシもあのような青空になることだろう」という詩味、束の間、「とりあえず腹いっぱい牧草をはんで、横になろう。ワタシはかつて、そうすることによって牛になったのだ」と、背徳的、退廃的な気楽さに包まれながら、300kgを超える全身を弛緩させさせ食材の敷き詰められた牧場にたゆとうとあゆむる――ニンゲンでは、知る由もなかった朝の感覚。

*****

「あゝ――牛っていいなぁ」

 不惑を迎える独身男性たる筆者においては、特に何の懸念もなく牛になれる。雌ではないので、毎朝乳房をギュウギュウされて搾乳される煩わしさもない。歳が歳なので、肉も硬く、食用に適さないので、出荷される恐れもない。かといってタダ飯ぐらいで牧場に置いておかれる道理もあらでなので、自ずと筆者牛の仕事といえば、雌に種を付けるいわゆる交配――主にSEXということになるわけです。きっとたぶん間違いなくメイビー。唯一の心配は――

 オレ……本当に牛になれるのだろうか……




 様々な文献や書物やブログや、Wikipediaをつらつら見ているのだが、「自分は、『食後即横臥法』によって、牛になれたよぉヽ(=´▽`=)ノ」という記述は一切見当たらない……何故だ……都市伝説の類だったってのか?食べて直ぐ横になっても牛になることはできないのか?思い返せば自分は、無自覚ながら年間約500回以上、食後すぐ横になるの儀をそれこそ数十年にわたって実施してきたのに、「牛っぽい体型」になりはこそすれ、偶蹄目ウシ科に相応しい風貌には、まだまだほど遠いの現実ではないか……牛に……こんなにも牛になりたいオレなのに……

 いや…・…ちょっと待て……そうか……そういうことか……


 考えてみれば、ヒトが牛になったという記述が、「文献に無い」ということこそが、何よりの証拠ではあるまいか!つまりこうだ――牛になれたからこそ、「牛になったよヽ(=´▽`=)ノ」という割りと可愛い顔文字付きの記述を残すことが出来なかった、に違いない。そういう推理なのです。

 モウ、これ以上考えるのは止めよう。

 実際に牛になれたヒトはきっといる。

 だって世界には――1500000000頭以上の牛がいるという国際連合食糧農業機関の統計がある。その桁数のなかにはきっと、何割かはきっと、「牛になれたヒト」が含まれるに違いない!

 そう信じて……

 今日も僕は……牛すき弁当大盛り(+チキン南蛮おかず)をほか弁で買っては、食っては――すぐさま横になって待ちわびています。

 煤けた天井壁に……蒼天と朝露の幻想を映しては、反芻しながら……

作品名:どーでもえっセイ 作家名:或虎