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横須賀・横浜旅行記 ふんわりと、風のごとく 第一部

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第一章
どこかへ行きたくなった。

 暮れも押し迫ったある日のこと。たまたま立ち寄った近所の家電量販店で、新しいデジタルカメラを買った。それが日曜日の話だった。しかし、早速、翌日にそれを持ってどこかへ行こうということはできなかった。こんな僕でも、〝仕事〟なんていうものがあるのだから。翌週は3連休だけれど、土曜日に学生時代の先輩と千葉県は船橋市の中山競馬場へ行く話をしているので、他に遠出はできそうにない。と言うことで、年末の旅として、横須賀市や横浜市方面へ行くことにした。
 横須賀方面には昨年の10月にその先輩と行って来たが、その時はJR横須賀線沿線だった。実際、横須賀市の中心部は京浜急行線の横須賀中央駅の辺りなのだそうだ。その時にその辺りには行っていないから、この機会に行ってみようと思う。ただ、横須賀線にもどうしても乗りたい。沿線の田浦駅周辺には、この駅から続く廃線跡があり、これをもう一度見たい。前回の訪問の際は土砂降りの雨の中だったので、ゆっくり見ることができなかった。
 横浜市では、中学生の頃にテレビ番組で見た戸部という街に行ってみたい。何でも、造船所が近いのだとかで、テレビで見た感じでは、とてもいい雰囲気だったことを覚えている。時間があれば、中学生の頃からの憧れの街である洋光台にも行きたい。まあ、洋光台には何度か行ったことがあるから、割愛しても差支えはないのだけれど。先に横浜市内へ行くべきか、横須賀市内へ行くべきか悩むところ。どちらにしろ、往路も復路も横浜駅を通るので、その時の気分次第ということにしておこうか。
 戸部の街へ行くには、京急線に乗る。一体、何年ぶりの京急線だろうか。最近では学生時代に乗った記憶があるが、それ以降に乗った記憶はない。ただ単に、記憶にないだけなのかも知れない。けれど、いずれにせよ久しぶりに京急線に乗ることになる。確か、その学生時代に乗った時は、ドアが両開きではなくて一枚のドアが片方にしか開かないタイプの電車に乗ったことは覚えている。どうせ京急線に乗るのであれば、三崎口駅から三崎漁港に行ってくるのも面白いのかもしれないけれど、さすがにそんな余裕はなさそうなので、これも割愛。その代わり、横浜駅から横須賀中央駅までの間に降りるべきという駅があったら降りてみようと思う。
 とりあえず、どこか降りるべきという駅がないか、インターネットで京急線の路線図を見てみると、まあ、降りるべきという駅がたくさんあること!安針塚駅や金沢八景駅などなど。などという何となく縁起のいい名前の黄金町駅もあったし、これは京急線沿線を先に回るべきだろうか。あんまり旅の計画は立てないタイプの人間だけれど、時間の大まかな試算ぐらいはしておいたほうがよさそうだ。
 さて、困ったことが起きた。年明けには中央本線の松本経由で長野へ行ってこようと思っていたが、中央本線と並行している中央自動車道の笹子トンネルにおける崩落事故の後処理が長引き、年末年始は中央本線経由で帰省する人が多いのだとか。なので、特急列車の自由席なんて座れたものじゃないだろう。その上、個人的には年末の競馬で大敗を喫してしまい、金欠状態。結局、長野は次の機会に譲り、年始の〝初乗り〟は横須賀・横浜へのぶらり旅にすることとした。
 話は前後して、ある暮れも押し迫った日。たまたま会った知り合いの女性の笑顔を見て、ふと思った。
〈この人がマドンナの旅って、どんな旅なのだろう〉
 9連休の真っ只中、そんな取り留めもないことを考えていたら、旅の当日となってしまった。以前から素敵な人だとは思っていた。しかし、〝仮〟が付くかも知れないとは言え、あのひとがマドンナになるとはなあ……


第二章
旅立ちの朝

2013年1月5日

 年が明け、2013年最初の旅の日となった。朝一番のバスでたどり着いた所沢駅は、まだ眠りの中にいた。東の空には朝焼けが赤々と燃えていた。一昨日の時点では、晴れのち雪という予報だった。今の時点では晴れだったけれど、どうなることやら……
 街は昨日も正月ムードだったが、旅の出発地点である所沢駅も今日はすっかり正月気分も抜けていた。まずは旅の出発前のお決まりである、駅前のファミリーマートでの買い物。タバコと缶チューハイを買い、ファミリーマートの前で缶チューハイを飲む。そして、近くの喫煙所で一服してから、駅へと向かう。
 いつも利用している所沢駅も、随分変わってしまった。昨年の3月に新しい駅舎ができると、11月には別の場所にあった東口改札が新駅舎に統合された。生まれてからずっと東口の改札口を利用している僕にとっては、統合されて間もない頃は新しい改札口へ行くのが大変だと感じた。しかし、毎日、通勤で使っているうちに、だんだんと慣れてきた。新しい駅舎ができて、初めて足を踏み入れた時は、西武線の駅らしからぬ近未来的なデザインに、どこか別世界へと来たような気分になったものだった。それも夏頃にはもう見慣れてしまい、新鮮味は失われてしまった。
 先に述べたように、昨年末の競馬で大敗を喫してしまったため、深刻な金欠状態。しかし、お金がない旅ではあるけれど、せっかくの旅なので池袋駅までは特急列車で行こうと思う。池袋駅までの特急料金は350円。他の鉄道ならば、500円ぐらいはする区間だろう。この特急料金の安さは西武線の特急列車の特徴とも言える。ラッシュ時などは通勤客の利用も多いので、JR線などでラッシュの時間に運行されている〝〇〇ライナー〟といった類の列車の先駆けという意見もある。
 西武線の特急列車は、〝ニューレッドアロー〟の愛称を持つ7両編成の電車が使われている。平成5年に登場した時はオヤジにせがんで乗せてもらったこの電車も、気が付けば今年で20年選手となっていた。昨年の夏から今の会社の一員となった今では、時々、高田馬場にある会社から帰る時に利用することがある。旅に出る際も、よくお世話になっている。
 特急券の券売機は新駅舎の直下にある。階段を下りて、その横を通って行く。この辺りは実に狭く、子どもの肩幅よりも狭いかも知れない。それしかない場所だから、黄色い線の内側を歩くのは、物理的に不可能だと常々思っている。ともあれ、特急券売り場にたどり着き、特急券を買う。指定された前の方の車両だった。実はこの次の特急列車で行こうと思っていたけれど、時間を間違えた。この寒空の下で待つのも大変なので、一本早い特急列車で池袋駅に向かうことにした。
 西武線の特急車両は、〝ニューレッドアロー〟の愛称の通り、赤いストライプが車体に入っている。昨年になって、埼玉の秩父にある長瀞という町のレストランが『ミシュランガイド』に掲載されたことを記念して、その赤いストライプを緑色にした〝グリーンアロー〟と言うべき車両や、初代〝レッドアロー〟の色を無理矢理再現した〝レッドアロークラシック〟などもある。しかし、到着した特急列車は、ありふれた普通の〝ニューレッドアロー〟だった。池袋駅までノンストップで走る。


第三章
西武池袋線を行く。