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私の読む「源氏物語」ー83-蜻蛉ー2

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 腹を立てて怒鳴る。浮舟のことを知らせていなかったから、頼りない境遇で浮舟は暮らしているのであろうと彼は思っていたのを、浮舟を薫が京へ迎えた後に、浮舟は立派に暮らしていますと彼に告げようと、北の方は考えていたので、浮舟が亡くなった今は隠すこともどうかと思って、浮舟のことを泣きながら夫の常陸介に話した。また薫からの文も見せると、常陸介は貴人や権門に媚びる人であり、また、田舎者で物事に感心する人なので、驚いてしまい文を何回もひっくり返してみては、
「浮舟は幸福を目の前にして死んでしまったことよ。自分も薫の家来なので、薫の御殿で警備についてはいるが、お側近くにさぶろうこともないが、薫は立派な殿である。若い子供達の事を、御書面中に仰せなされたのは将来が楽しみである」
 喜ぶ姿を浮舟の母である妻が見ると、以前に増して、浮舟が生きていれば薫からこのような文も来なかったであろうと、浮舟の死の、悔しさ恨めしさに、ころがり臥して鳴くのであった。夫の常陸介も涙を流していた。そうではあるが、浮舟が生存中には、彼女が生きているから、母への文もなく、まして、この常陸介の子供のような者を、特に目にかけて、世話をするようなこともなかったであろう。宇治に捨てて置いたようにした薫の過ちで、亡くしてしまったが、浮舟が可哀想、母親を慰めるにはと、薫が考えたことである。世間の人の非難を真剣に聞入れようと、薫は思っていた。
 四十九日の法事などを、薫が執行するのにも、死骸が上がらない浮舟はどうなったのか、もしや生きているのではないかと薫は思うが、死んでいても生きていても、法事は、死んでおれば罪障消滅、生きておれば息災無病の祈祷にもなるので、罪作りにはなるまいと思うから、人目を避けて山のあの律師(阿闍梨)の寺で催した。六十人の僧に与える布施などは、薫が、思い切って恥ずかしくない量を決めた。浮舟の母も、宇治に来ていて追善供養の事など、薫の準備の上に、更につけ加えた。匂宮は右近の許に白銀の壺に黄金(砂金)を入れて、費用にと贈ってきた。他人が関心を持つほどに大袈裟な事を匂宮はしなくて、表面上は右近の志として供養をしてきたので、知らない人は、
「どうして右近はこのように大きな供養を出すのだろう」
 だれもが言い、または思う。法事を世話するため御殿の人達で、薫に親しい者だけを皆山寺に手伝いに行かせた。「不思議に、噂にも聞かなかった人の四十九日の法事を、薫がこのように過分に扱うのは、誰が仏なのであろうか、わからない」
 と今になって新たにびっくりする、薫の殿人ぱかりのところに、常陸介が来て、浮舟や薫の外聞を考えると言う思慮もなく、主人ぶっているのを、いかにも、見苦しいと薫の家人達は見ていた。常陸介は少将の子供を娘に産ませて、すばらしく立派な御祝を、娘にしてやろうと、大騒ぎをし、家の内に飾りつけない品物は殆どなく、まだその上に、唐土や新羅の品物まで集めて、飾り付けをしたいのであるが、身分が身分であるから、出来るかどうか怪しいものである。然しこの法事は、隠れて催すように思うのであったが、その様子の、この上なく立派なのを見ると、浮舟がもしも存命しているならば、薫の忍び妻であろうなあ。然らば、自分(常陸介)が、同等である事の出来そうもない人の前世の御因縁なのであったと介は思う。中君も誦経を布施し、また、七僧の饗応のことも供養した。
いかにも、今になって薫が浮舟のような愛人を持っていたと帝までが知るところとなり、並大抵でなかった浮舟を、正妻である女二宮に遠慮し隠していたのを、気の毒な女であると、帝も思われた。
 薫と匂宮二人の心中は、浮舟の事が、いつも新しい悲しみとして心に浮かび上がってくる、匂宮と浮舟は関係が睦まじくなり二人の情熱が高く昇ってきたときに、浮舟が失せてしまい悲しみは辛いけれど、浮気な匂宮の性分は、悲しい気持が納まるであろうと、他の女に懸想をして関係を結ぶこともだんだんとあるようであった。ところがもう一人の薫はこのように世話をして、総ての面倒を見ようと、浮舟の後に残っている母や兄弟などを、保護し世話をするが、それでも言っても甲斐のない悲しい浮舟の死の事を忘れることが出来ないのであった。
 明石中宮の叔父である式部卿宮のための、軽い服喪中は六条院に居住していたが、匂宮の兄の二宮が、亡き人の後を継承して式部卿に任官した。二宮は、タ霧の中君の婿である。式部卿と言う身分が重々しいのでいつもは明石中宮方に来ないのである。匂宮は派手派手しく、物悲しいままに姉の女一宮である一品宮の処を訪れては気を晴らす所としていた。けれども、美しい女房の顔をちらっとは見るが十分に見る事が出来ないのは、気持が残ることであった。薫が忍ぶに困難な、厳重な一品宮(女一宮)の女房達の中に、やっとの事で入ることが出来て話をするのは一品宮(女一宮)の女房小宰相の君という女である、彼女は女としての容貌なども色々の点が勝れ、綺麗な女でであった。薫は彼女を気のきくオ女と思っていた。彼女は、同じ琴(絃楽器)、即ち琵琶や箏や琴などをかき鳴らす爪音や、琵琶の撥音も、他の女房より優れていて、文章も、物の言い方も、風情のある雰囲気を持っていた。匂宮にも、最近はこの小宰相を勝れた女であると、懸想をするので、匂宮のものにしようと、浮舟の時のように、薫と小宰相との仲を、薫の心が浅いように悪く言う事によって裂かそうとするが、小宰相は、どうして誰ものように靡くなんてやすやすと靡くようなことはないと、気が強くつれなくて憎らしい態度であるのに、薫は、小宰相は、多少、他の女よりは勝れて感心な所があると、思っていたのであった。薫るが浮舟に恋をしていたことを知っている小宰相は、薫が浮舟を亡くして悲嘆している様子を見てはじつと、我慢していられないので、

哀れ知る心は人におくれねど
   数ならぬ身に消えつつぞ経る
(浮舟故の貴方の傷心を、私が理解している気持は誰にも劣らないけれども、物の数でもない、つまらぬ私の身なので、(御身は浮舟をのみ思い、私を思いなさらないから、遠慮して、今まで御悔みも申さないものの)人心地もなくずっと、私は過ごしているのである) 浮舟と、私の惜しくない身とを代えたら如何ですか」

 と、上等な紙に書いてあった。悲しみを感ずる夕暮れ時のしんみりした時分を。良く見計らって薫に渡すのも心をくすぐる、返歌は、

常なしとここら世を見る憂き身だに
     人の知るまで歎きやはする
(世を無常と、多く見て知っている、私のつらい不運の身でも、他人が気づく程度まで嘆きはするか、しない)

 この慰めの文に薫は心を癒されて、
「しみじみと悲しかった、折も折であったから、大変嬉しかったよ」
 と礼を言いに彼女の局に立ち寄った。