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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第十六話

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 まずは共有する者同士の波長が合っていること、そして当然のことだがそういった能力を持っている人物がいる、ということだ。

 オレはそれを聞いて鼻で笑ったっけ。
 信じたいけど、当たり前から逸しているって。
 仮にそんな力を使う人がいるとして……当然オレにそんな力はないから、それはまどかちゃんが持っている力なのかもしれない。


 「つまり、こう言う事かな。まどかちゃんは、ここから出るために助けを求めていた。それは、夢の世界にも広がって……その訴えを、オレがキャッチした、と」

 オレの荒唐無稽な意見を、真摯な瞳で聞いてくれるまどかちゃん。
 オレ自身ですら、自分の言葉が半信半疑なのに。
 無条件に信じてくれていることが、何だすごく嬉しかった。


 「で、でも、わたしにそんな力があるなんて知らなかったし、ここから出られなくなってから助けに来てくれたの、雄太さんが始めてですよ?」
 「うん、これは偶然とかたまたまって言葉じゃ言い表せないと思う。これは、運命だったんだ。オレとまどかちゃんが会ったのはね」
 「あ……」

 言ってから後悔した。
 いや、後悔は後にするから後悔なんだけど。
 
 どうやらオレは、夢の世界の住人になってしまったらしい。
 そう思うくらい浮かれ、強気だった。
 まどかちゃんの顔が赤く染まるのを見て、ますますやってしまった! という気持ちになる。
 なんでこんな莫迦正直で歯の浮きまくりな台詞、吐いてんだよっ!
 
 これじゃあ、まるで……。


 「えっと、今のはその……何だ」

 言葉のあやなんだって、誤魔化そうとするのだが、なにがあやかも分からず、その言葉は出てこない。

 きっと、オレはそれが誤魔化しじゃなくて本当に思っていることだって心のどこかでは自覚しているからだろう。
 それは、誤魔化しと言うよりは照れとか驚き、なんだと思う。

 こんなことを言える気持ちがオレにもあったんだっていうのと、オレにもこんな機会がやってくるとは! って気持ち。

 まどかちゃんはオレの言葉を、言葉にしきれない気持ちを全て汲み取ってくれるかのように頬を桜色に染め上げ、その澄んだ瞳でじっとこっちを見つめると……言った。


 「運命。わたしも、そう思っちゃって、いいですか?」

 それは、同意というよりはむしろ、願いにも似ていて。

 オレは、その言葉を受けて決心する。
 だからオレは、その決心を口にした。


 「よし、じゃあ行こう! オレがここから出る方法を必ず見つけるから! ここから一緒に出るんだっ」

 そしてオレはまどかちゃんに手を差し出す。


 「うんっ、ありがとう雄太さん。わたし、そう言ってもらえて、すごく嬉しいよ」

 まどかちゃんは、泣き笑いような笑顔で、オレの手をぎゅっと握り返してくれた……。



             ※     ※     ※



 それ以降……誰かに会うこともなく、オレたちは順調に出口へと辿り着いた。
 二手に分かれて進むことで開かれるはずの扉は、とっくに開け放たれていて。

 そこには誰の姿もない。
 いるはずの中司さんや快君の姿もなかった。


 「いや、まあ確かに待っててくれとは言わなかったけどさぁ」

 黒陽石に執着する感覚。
 正直理解に苦しむ部分もあって、つれない二人にぼやくしかない。


 「アキちゃんもいなかったしな。こうなったら」
 「こうなったら?」
 「のんびり行こう」
 「うん」

 別に急ぐようなこともない。
 だったらオレはオレでしたいことをしようと思った。
 
 まどかちゃんと少しでも長く一緒にいたいって。
 楽しげな彼女を見ていると余計にそう思えて。


 だいだらぼっち……もとい、入道雲は、何人もが空を覆わんとしていたけど。
 未だ太陽の光はオレたちを、程よい暖かさで照らしている。


 持参してきたコンビニのおにぎりを分け合って食べながら、なお話題は続いた。
 話題は、聞きたかったことの一つ、まどかちゃんの名字についてだ。


 「え? じゃあここを創った人がまどかちゃんのおじいさんなんだ?」
 「うん。それで、わたしはおじいさまのお手伝いをしようと思ってここに来たの。最初は外に出られなくなっちゃったりとか、そういったことはもちろんなかったんだけど、おじいさまが行方不明になってから、ここも変わっちゃって……」

 オレが、仕事はもういいのって訊いた時、まどかちゃんが置いていかれた迷子のような表情を見せたのは、そのおじいさんがいなくなって、ひとりになってしまったからだったんだと、何となく理解した。

 ひょっとして、もう随分ひとりぼっちだったんじゃないのか。
 そんな風にも思える。


 「そっか、ひょっとすると、ここを出るカギはそのまどかちゃんのおじいさんが握っているのかもしれないね」

 おじいさんも見つかればいいなと、二重の意味でオレはそう言う。
 何せここを創った人なのだ。
 見つけ出すことができれば、ここを出る方法を教えてくれるかもしれない。


 「そう、だね。そうだといいな。だってね、この巻物も、おじいさまに絶対無くしてはいけないって渡されたものだから……」

 そう言って今までずっと大事そうに抱えていた巻物を見せる。

 「ふーん。じゃあこれは、何かの役に立つものなんだろうな」
 「うん。だと思うけど」

 不安そうな声。
 おじいさんのことが、それだけ心配なのだろう。

 と。そんな不安を煽るみたいに、地面に壁にぶつかって弾ける水滴。


 「あ、雨っ」

 まどかちゃんは巻物を慌てて濡れないように手のひらで覆うが、あまり意味を成していなかった。
 空を見ると、まだ遠かったはずの黒い雲が、いつの間にかこの広大な遊園地を覆う天井のように広がっているのが分かった。


 「このまま降られると厄介だな」

 傘を持ってきたはずだと、手持ちのリュックを漁ったが、その姿はどこにもなかった。
 そういえば、降ったら快君にでも借りようとか考えていたのを思い出す。


 「とりあえず、その巻き物はこのリュックの中に入れておくといいよ。強く降られる前にどこか屋根のある所、探さないと」

 オレがそう言って、まどかちゃんからそれを受け取ろうとした時だった。

 がくん、と引っ張られる感覚。


 「……」

 振り向いて、うつろな、表情を失ってしまったかのようなまどかちゃんにはっとなる。
 それまで瑞々しかったその大きな瞳は、鈍色のフィルターが降りたかのように色を失ってしまい、ついさっきまで忙しくしていたはずの顔の表情は、全て活動を停止してしまったかのようで。

 
 ゴゴゴォォオオーン……。

 その時、三輪ランド一体に響くだろう、たとえるなら巨大な腹の虫が暴れるような雷の音がした。
 それは、空にかかる鐘の音のようにも思えて。

 
 「うわっ?」

 それが合図でもあったかのように雨は強さを増した。
 すぐにスコールとでも呼ぶべきものになって、地面に水溜りを広げていく。

 「まどかちゃん、しっかりしてくれ、すごく降ってきた!」
 「……」