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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第十一話

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 オレたち四人はその道すがら、本当に色々な話をした。
 まるでオレたちは、十数年来の顔なじみであるかのように、腹割って話すまで……って言うのは大げさなのかもしれないけれど。

 最初は敬語混じりだったまどかちゃんも、元々敬語を使うのには慣れていなかったらしく、すぐにくだけた、おそらく普段通りの喋り方になっていた。
 その様が、オレをそんな気分にさせたのだろう。
 それだけでまどかちゃんとの距離が近くなった気がして。
 それだけでオレは、とても嬉しい気持ちになっていて。


 そんなまどかちゃんは、宝箱のある場所と言ったが、宝箱自体はこの三輪ランドのありとあらゆる場所にあるらしい。
全てを案内してもらおうとすれば日が暮れてしまうし、まどかちゃん自身もその全てを知っているわけではないそうで。

 
 今向かっているのは、まどかちゃんがよく足を運び、よく知る場所の一つだった。
 そのためにはまず、広大な庭園地帯を抜け、いくつかのアトラクションを越えて行かねばならないらしい。

 三輪ランドの厄介なところは、アトラクションとその間の通路は繋がっていて、体験せずに脇を通過する、ということができない点にある。
 
 感覚的にはエスカレーターに近いだろうか。
 一度乗れば、引き返すことは終わるまでできない。
 乗った場所に戻るには、もう一度アトラクションを体験しなくてはならない。

 本当に、子供連れの大人泣かせだ。
 そのぶん、他の遊園地より休憩所が多そうなのは、せめてもの救いだったろうけど。


 そんなわけでオレたちが最初に踏み込んだのは、花々でできた大迷路だった。
 
 『ラビ・ラビ・フラワー』と呼ばれるアトラクション。
 この三輪ランド自体が一筋縄ではいかないダンジョンのようなものである代わりに、行く手を阻む花の壁は背が低く、それでも広いぶん純粋にそれは楽しめそうで。


「それにしてもさ、この辺りって、虫とか全然いないんだね」
「虫っ? そんなのいないにこしたことないでしょう?」

 さりげなく辺りを見回しつつ、引き気味にそう言う中司さん。
 確かにそうだけど、快君の言うことも、もっともだった。

「そう言えば、いないよな、虫。こんなにたくさん地面があるんだから、蟻くらいいそうなものだけど」
「……うん、わたしも見たことないよ」

 大変と言うよりは、何だかまどかちゃんの声色は寂しそうで、オレは思わず訊いてしまった。

 「虫っていうか、害虫がいないのは良い事じゃないの?」
 「うん、そうなんですけど。お花を育てるのって、そういうお世話する大変さがあるから、育ててよかったって思えるし、逆に虫さんとかいないと、何だかお花がお花じゃないものに見えちゃう時があるんです」
 「……」

 それはまるで生きていないかのように。
 沈んだまま何かを吐露するかのようなまどかちゃんの言葉には、単純にそれだけでなく、何かが含まれているような気がして、沈黙が怖かった。

 オレが、そんなまどかちゃんの言葉に対して何か言わなきゃって思っていると、口を出したのは快君だった。


 「そっかあ。それじゃあ、ここに住んでる人たちは、『ありがとうのうた』、きっと知らないね」
 「ん? なんだっけそれ?」

 しみじみと、一見関係のなさそうな話題をふってくる快君に、オレは呆気に取られてそう聞き返す。

「ええっ? 雄太くんは知ってるでしょ?」

 驚いたように快君に言われ、オレはしばし考えてみる。
 そして、すぐに答えに気付いて、噴き出してしまった。

「ぶふっ。何を言うかと思えばっ、た、確かにそうかもしれないけどっ」

 二人して思いがけず笑い出し、意味の伝わっていないまどかちゃんと中司さんは? マークを浮かべている。
 おかげで、今さっきあったはずの暗くなりかけた雰囲気はどこかに行ってしまった。

 まさか、狙ってやったわけではないだろうけど。
 やがて、二人だけで面白おかしくしているのが気に入らなかったのか、中司さんが言った。


 「何よ、二人してっ、その『ありがとうのうた』ってなんなのよっ!」
 「知らない? 知らないの? 『ありがとうのうた』だよ。田吾作さんが〜♪で始まるんだ」

 田吾作さんて誰やねん、と突っ込まれる前に、そのフレーズに反応したのはまどかちゃんだった。

「あ、知ってる! 知ってるよわたし、その歌!」

 まるで飛び跳ねんばかりに、喜びを露わにするまどかちゃん。

「続きは? それだけじゃ、知っている歌かどうか分からないわ」

 対して自分だけ知らないのが気に食わなかったらしく、そんな言い訳をしてくる中司さん。
 それを聞いた快君は、待ってました! とばかりに、それに応じる。

「うん、分かったよ。実際歌ってみるから、聞いてて? ……さあ、みなさん! ご一緒にーっ!」

 合いの手を打ち、そのまま前奏を歌いだす快君。
 まどかちゃんも乗り気で手を叩いてる。
 そして、オレもかよって思いつつも、その後に続かずにはいられないオレがいて……。


 田吾作さんが〜♪
 日頃の感謝を込めて〜♪
 お山のてっぺんのお社に、向かった時の話です〜♪
 
 HEY!
 山道を、歩いたら〜♪
 アリが十匹並んで歩いていて〜♪

 ありがとう〜♪
 ありがとう〜♪
 ありがとう〜♪




 「……(どきどき)」
 「……(わくわく)」
 「……どう?」
 「く、くだらなすぎる……」

 案の定、呆れ果てたようにそう呟く中司さん。
 しかし、その表情はそれを通り越して、してやられた感が滲んでいる。
 それらしいタイトルのために、色々想像してしまったのが愚かだったという、一種の敗北感にも似た感情に支配されているのだろう。

 だがそれは、決して悪いものではなくて。
 思わず笑みが湧き出してくるような、そんな表情。
 典型的な、この曲を初めて聴いた時のリアクションだ。


 「由魅さん、知らなかったんだね」
 「そうだねぇ……由魅さん世代が違うから」

 楽しそうなまどかちゃんのセリフに、悪びれもせず、あるいは懲りずに、にこにことそう言う快君。

 「お・な・い・ど・し・ですっ!」
 「うわぁっ、由魅さんが怒ったーっ!」
 「待ちなさいっ!」

 快君の言葉を受け、拳を振るわせた中司さんが、鬼の表情で、快君を追いかける。
 今度は捕まらないもんねっ、といった気合十分で快君は脱兎のごとく駆けていく。


「……ひょっとしてわたし、怒らせちゃった?」
「気にしなくてもいいさ。いつものことだから」

 いたずらっぽく伺ってくるまどかちゃんに、オレは軽くお手上げのポーズをしてフォローを入れる。

 ただ、別にたいしたことじゃないんだけど、何かが違う感じがしていた。
 いつも見てる、当たり前のじゃれ合いなんだけど、何かが決定的に違うような、そんな不思議な気分。


 「何だか楽しいな。すっごく暖かい気持ち。こんな風に思ったの、久しぶりです……」

 しかし、オレの考えも、まどかちゃんの呟きで跡形も無く消え去ってしまった。