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正常な世界にて

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【第37章】



 私が照準の先を、彼女の降下に合わせるより前に、坂本君が自動小銃で発砲し始める。数発ずつ宙を舞う空薬莢。
 せっかちな彼は待ちきれなかったのだ。親の仇がかかってる以上、やはり自分自身の手でという思いもあるはず。
 とはいえ、ここは私を信頼してほしいところ。スコープも無い自動小銃でこの距離じゃ、弾の無駄遣いにしかならないし、何よりもうるさい。
「坂本君。ここからだと、その、当たらないからさ?」
「え? なに?」
坂本君はマガジンを交換しながら、適当な返事をしてきた。手持ちの弾をすべて使い果たしても構わない調子だ。すでにそばの地面は、自動小銃の空薬莢で一杯だった。一方、弾のほとんどはマンションの外壁にも当たらず、空のどこかへ消えていく。
 これはなおさら、私が早く仕留めなきゃいけない……。二日連続で、銃や弾探しに付き合わされるのは嫌だ。

 幸い、あの彼女はなお狙える位置にいる。坂本君からも銃撃を受けていると把握し、方向を見定めながら、慎重に降下している感じだ。
 しかし、これは直接こちらに乗りこむ用意とも取れる。伊藤さんたち主力がマンション内部にいる今、このコミュニティの守りは手薄だ。彼女がどこかから侵入してくるかもしれない。
 しかし、あの身のこなし具合から考えても、私と坂本君に勝ち目はあると正直思えない。流れるような展開で、次々に次々殺される私たちの姿が、脳裏に浮かぶ……。
 そうならないためにも、ここで決着をつけなきゃいけない。私は一度深呼吸をした後、照準の先を彼女の胴体に合わせる。位置的に狙えるのは、この一発か二発だけ。
 瞬きを自粛する右目。……よし、今度はバッチリ。そして、瞬発的に引き金を引く。
「アチッ!」
ところが発砲した瞬間、猛烈な熱さが背中に湧き上がる。思わず私は両目を見開き、銃を放り出した。
 発砲を忘れるほどの高熱が、背中から脳にダイレクトに伝わってくる。ああ、これは熱い! 収まることなく、背中のあちこちが熱せられる!
 恥ずかしさを厭わず、両手で背中を必死に探る私。その小さな熱源は空薬莢だ! そう、坂本くんの、……あったあった!
 指先が熱いけど、背中で感じるより格段にマシだ。こもる高熱が、指先の空薬莢からジワジワと伝わってくる。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん