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正常な世界にて

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【第35章】



 私はすぐさま、高山さんに電話をかけ直したが、呼びかけ音すら聞こえてこない。スマホの画面を改めて見ると、一本も立ってないアンテナが圏外だと主張していた。つい今まで、普通に電話できていたのに……。

「特殊な装置を使って、電話してきたんだろうね」
伊藤が言ってきた。あり得る話だけど、今は驚いたり、考察している場合じゃない。
「大変な事になったらしいね?」
伊藤はそう言うと、ノートパソコンをそそくさと片付け始める。小さな溜め息までついた。
 どうやら、私と高山さんのやり取りは、様子を察するだけで、その内容を把握できたらしい。まあ、誰にでもわかるレベルで取り乱していたので、これは当然だね。

 しかし、私に落胆してほしくない! あの女三人組の件は、私に責任は無いんだから……。

「私と坂本君だけのせいじゃないですよ!?」
私の口から自然と言葉が出た。まるで不祥事を起こした社長か政治家の発言みたいだ。
「うん、それはちゃんとわかってるよ。でも、戦わないつもりは無いでしょ?」
電源を落としたノートパソコンを、再び右手で抱える。左手に抱えたままになっている小包がつい気になるけど、今は好奇心に耐えないと。
「もちろん戦いますよ。でも、高山さんの組織は、心配しなくて大丈夫な相手じゃないんですか!?」
「……いや、それは違うよ。私が言ったのは、心配し過ぎなくて大丈夫な相手という話」
うーん、ややこしい言い方をしてくれた……。
「けど、心配しなくていい相手ではあるんですよね?」
一体どれぐらい心配すればいいんだろうか?
「それはそうだけど、油断してはいけないよ? 相手は『窮鼠猫を噛む』な状態になってるだろうからさ」
汚い言葉だけどつまり、やけくそになって戦ってくるというわけだね。
「坂本君に知らせてきます!」
私はそう言うと、部屋に置いていたライフルと弾薬箱を両手に持ち、足早に玄関へ向かった。

 家を飛び出し、エレベーターの到着を待っていると、伊藤が追いついた。
「坂本にどう伝える気なんだい? 彼なら速攻を仕掛けかねないよ?」
「それはわかってます!」
興奮していた私は、強気でそう言い返す。殺気まで感じ取られてのか、伊藤は押し黙った。
 当然気まずくなり、私はライフルのボルトを軽くカチャカチャと鳴らし、平静さを装う。……いや、装うだけでは不十分だ。今は気持ちを落ち着かせて、坂本君に話せなくちゃいけない。
 面倒な戦いが迫る、避けられない現実に向けて……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん