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正常な世界にて

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【第20章】



 IQ検査は全国民に義務づけられた。しかし、そんな「義務」を嫌がる人は少なくない。
 当たり前だが、そういう人はすぐに捕えられ、無理やりIQ検査を受けさせられた。法律施工後のしばらくは毎日のように、IQ検査逃れ逮捕のニュースが流れた。彼らは、警官に拘束され、黄色い救急車に積み込まれた。IQ検査のため、病院へ送られるそうだ。

『おいしいお食事と過ごしやすいお部屋をご用意しています。かつての悪名高い強制収容所ではありません。ここは矯正収容所です。ご安心して、IQ検査を受診してください』
強制連行のニュースとともに、矯正収容所やIQ検査の広報映像もよく流れた。ただこちらは、危機感を煽る内容ではなく、矯正収容所は素晴らしい場所だという内容だ。IQ検査と強制収容に対する、人々の抵抗を和らげるためだね。
 でも、今までの残酷な経緯から考えると、その広報映像をすんなり信じることなどできなかった。嘘まみれか、良い部分だけをクローズアップしているに違いないと考えた。
 そこで、高山さんに尋ねた。周りに誰もいないときを狙ってだ。
「あんなの嘘まみれだよ。実際はヤバいところだから、森村さんも気をつけなよ」
彼女はハッキリとそう言った。忠告のようにも聞こえた。
 裏情報を知る彼女がそう言うのだから、その通りなんだろう。予想していたとはいえ、IQ検査と強制収容は、やはり恐ろしいのだ……。私にできることは、自分や家族が酷い目に遭わないように気を配るぐらいだね。
 私一人が、IQ検査や強制収容は恐ろしいと声を上げたって無駄だ。なにしろ向こう側は、ネットやテレビなどのマスメディアを支配しているのだから……。

 強制収容の手は、学校内にも当然およんだ。授業中にいきなり、あの『第二十一特別支援隊』の兵士数人がやってきて、先生が連行されたのだ。当然、教室は一時騒然となる。一目で「パワー全振り」とわかる風貌の兵士たちは、先生を教室から乱暴に連れ出した。
 そして、自動的に授業は自習になり、坂本君が呑気にスマホをいじっていた……。連行される場面の動画撮影に成功したのだろうか?
 そんな事があるので、学校はもちろん、社会がおかしな方向へ進み始めた。だが、街には物がいまだに溢れていて、食糧不足にもなっていない。最近、日本製や日本産の物が急増しているようだが、これは一体どういうことだろう。高山さんからのありがたいお知らせによると、矯正教育の「一環」で、収容所で農業や工業の仕事が行なわれているそうだ。つまり、強制収容所の労働力のおかげで、メイドインジャパンの再興ができつつあるんだね……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん