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正常な世界にて

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 つまみ食い頻発で、クリスマスパーティがもう始まってしまったような雰囲気になる。テスト明け直後の教室みたいな賑やかさ。
 しかし、高山さんがダイニングルームに入ってきた途端、それは雰囲気でしかなかったとわかる。私や坂本君も含め、みんな一斉に自然と、背筋を伸ばしシャキッとした。生徒指導担当の怖い先生が、教室にいきなりやってきたよう……。

「あらあら、ターキーを最後にしてよかったみたい!」
高山さんは微笑みを浮かべていたけど、つまみ食いに対する怒りは感じ取れた……。部屋の空気から、クラスメート全員がそれぐらいは把握できたらしい。坂本君を除き、つまみ食い実行犯たちは、申し訳なさげな表情を顔に浮かべている。
 そんなところへ、メインディッシュである七面鳥(ターキー)の丸焼きが、カートに乗せられて運ばれてきた。いい感じの焼き立てて、香ばしい匂いが部屋中に立ちこめる。そのおかげで、部屋の嫌な雰囲気が和らいだ。
「……さて、よけいな挨拶は抜きにして、乾杯の準備を始めよっか?」
高山さんも気を取り直してくれたようだ。まあ、心の中ではまだ怒りが牛耳ってるだろうけど。

 みんなが自らのグラスを手に取る。まだ空なので、オレンジジュースなどのピッチャーから注ぐ必要がある。オレンジ以外の果物ジュースや、コーラやサイダー、ウーロン茶やアイスコーヒーまであり、選択肢はけっこう豊かだ。
「ふふふっ! クリスマスといえばコレでしょ〜!?」
高山さんが不敵な笑顔を浮かべつつ、上着の中から大きな瓶を取り出す。シャンパンだ! それも子供用の炭酸ジュースのやつじゃなくて、アルコールがしっかり詰まっているシャンパンだ! 見た目や雰囲気からして、かなりの高級品だろうね。
「おおっ、いいねー!」
「パァンってやってよ!」
当然の如く、クラスメートたちは浮足立つ。まだお酒を公然と飲めない高校生とはいえ、盛り上がるのは無理もない。
「え、いいの? 僕たちはまだ高校生だから、お酒を飲んじゃいけないんだよ?」
KYで悪名高い男子が、妙なセリフを口走ってくれた。せっかくの楽しい場が消沈してしまうじゃないか……。未診断らしいけど、私には彼がアスペルガー持ちだと思ってる。坂本君もアスペルガー持ちだけど、また違うタイプかもしれない。
「いいの、いいの! 自己責任で飲むなら、大丈夫だからさ!」
高山さんはそう言いくるめてやった。法律的に大丈夫かどうかは微妙だけど、これでいいんだこれでね。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん