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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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「同じカメラ好きとしてこれを取り上げるわけにはいかん。とりあえずこれは返す。話は聞こう」
 森野は俺からライカを受け取ると大事に皮ケースにしまってから話し始めた。
「あの…大変申し上げにくいのですが・・・」
「ふむ…秘密は守る。話せ」
 森野は大きく息をすった。
「話は三郎さんに聞いて欲しいのですが?」
 えーい、やっぱり帰れ!
 北下三郎、俺の相棒だ。あらゆることを手際よくこなす天才肌の男で相棒としてはこいつ以上に頼りになる奴はいない。反面俺よりちーと甘いマスクで周りには常に女が付きまとう。友人としてはこいつ以上にむかつく奴はいないだろう。先日FMラジオで恋愛相談なんてやったもんだから市内で名が売れてこいつ目当ての客が後を絶たない。いいかげん対応にうんざりしているところなのだ。
 再度森野をつまみ出そうとすると電話が鳴った。固定ではなく俺のスマホだ。耐水対衝撃のタフな奴だ。森野は放置して直ちに受ける。
「風見君か? すまんが今すぐに会いたい。会社にいるかね?」
 なんと鍵さんだった。この街の名士中の名士。駅前などに多くの不動産を所有し、それを財源に多くの商取引を行う会社「鍵エンタープライズ」の社長だ。ちょっとした縁で知り合って以来何かと目をかけてもらい世話になっている。鍵さんが用があるというなら会わないわけにはいかない。
「いますが御用なら出向きます。会社ですか?」
「ああそうだ。すまないね」
 いつもは自信に満ち溢れ頼もしい人なんだが様子がおかしい。何か不安げで落ち着かないようだ。ただ事ではあるまい。
 俺は至急向かう旨を伝え森野に外出を伝える。
「えー、話聞いてくださいよ、おねーちゃんが大変なんです」
 こちらも表情にあわて感が出ている。仕方ない。俺はさっきの写真を出し背の高いゲルマン人を指差した。
「この男は俺達の中で一番温和で誠実な男だ。三郎は外出中だがこの男なら話を聞ける。どうだ?」
 どうだも何も聞く必要は無かった。森野の瞳は既にハートマークになっている。
「シンクロ率85%は越えてますよ!」
「それはよかった。今呼ぶ」
 俺のシンクロ率が何%かはあえて聞かずジムをインターホンで呼んだ。
 ジェームズ・ロダンは俺より2歳年上の18歳。身長190もある見事な逆三角形の肉体を持つ男だ。体だけ見ればアメフトの選手のようであり実際運動神経も抜群だが何故かインドアな仕事を好む。夢は銃の加工や製作をするガンスミスだそうだ。先ほども言ったが性格は温和にして誠実。やや面長な顔には常に優しい笑顔が湛えられている。年齢以上に俺達より大人であり三郎でさえ一目置いている頼りになる男だ。
 地下のガレージで車の整備をしていたのだが来客と俺の外出を聞くとすぐに上がってきてくれた。
「ジェームズ・ロダンです。ジムと呼んでください」
 森野はそう微笑まれると一発で舞い上がってはわはわと話し始めた。
「わわわわたし森野めぐみです。風見センパイとは学校で知り合って…」
 どうやら俺の事は眼中から消えたようなのでその隙に俺は愛車プジョー106が待つガレージに下りた。
 拳銃ベレッタM84。携帯、スマホなどを確認し白いデニムの活動服を羽織る。
 準備よし。俺はインディゴブルーに輝く小さなフレンチカーに飛び乗り地下ガレージの坂を駆け上がって外へ出た。
 俺の名は風見健。この街のゴタゴタを解決する便利屋BIG-GUNの社長だ。というと偉そうに聞こえるが16歳のガキで、ただの悪党だ。
 さて、今日はどんな事件が待っているのやら。

ACT.1 行動開始

 店を出てラギエン通りを南下。松森中学を過ぎると1国にぶつかる。これを右折してしばらく走ると駅前通りの十字路だ。左へ曲がると、どんづきが駅。そのちょっと手前に我らがDクマがある。Dクマとはこの街最大のディスカウント・ストアで市民の憩いの場である。多くの市民が愛する場所である。余談だが少なからぬ市民がDクマをこの国最大のデパートと勘違いしているらしい。困ったものだ。
 Dクマの向かいはフードコートになっておりここに鍵さんが経営する鍵エンタープライズの事務所がある。ちなみに鍵さんの自宅はさらにそのむこう。駅前だというのに和風な豪邸がどんと鎮座している。便利だけど街の発展のために引っ越そうかと時々こぼしている。
 会社の駐車場にプジョーを停め中に入る。建物は鉄筋3階建て。会社の規模の割りに質素な建物だ。しっかりした造りだが無駄な装飾品はあまり無かった。玄関にトラでもドンと飾ってありそうだが…。事務員のおねーさんが応対してくれ応接間に通された。応接間のソファーセットはふかふかではなく食事にも使えそうな実用的なものだった。質実剛健な鍵さんらしいチョイスだ。3分と待たず鍵さんは現れた。瞬間違和感を覚えた。何か足りない。
「よく来てくれた。突然すまなかったね」
 堀が深く日に焼けた顔。長身でがっちりとした体を高価そうな和服が包んでいる。
 もう孫がいていい年齢のはずだが、精悍で若々しいいつもの鍵さんだ。
 だがいつもより目力が弱く感じる。風邪でもひいているのか?
「挨拶は抜きにして本題に入らせてもらおう」
 地に根を生やしたような人なのだが今日は何か落ち着かない様子だ…。一言で言うと焦り?
「今朝これが私の机に置いてあった」 
 白い封筒だった。封筒には毛筆で「退職届」とあった。達筆だ。
 受け取って差出人を見ると驚いた。
 黒沢 玲司。鍵さんの側近で凄腕のボディガードだ。
 年齢は30前後だったか、ストイックを絵に描いたような男だ。仕事は実直、無言実行の人だ。背が高くオールバックの下に輝く鋭い瞳はヤクザでも震え上がらせる。格闘技の達人で鍵さんに危害を加えようとする者には容赦はしない。
 そして何と言っても素晴らしいのは忠誠心だ。
 まるで主に従う武士。単に雇われているだけでは決して無い忠義をもって鍵さんを警護していた。
 その男が突然退職届とは解せない。
 中身はシンプル。
 一身上の都合で退職いたします。数々のご厚情に報いる事もできずお詫びのしようもありません。
「連絡は当然つかないんですね?」
 俺の質問に鍵さんは目を伏せて頷いた。
「電話は繋がらないし自宅も空だった」
「前日まで変わった様子は?」
 これには首を振った。
「全く気がつかなかった。9時に自宅に来るとまで向こうの方から言ってきたくらいだ」
 なるほど…鍵さんが不安げなのも俺が何か足りないと思ったのもこれが原因か。黒澤さんは常に影のように鍵さんに付き添っていた。
「警察には?」
「話しちゃいないさ。これは事件じゃないからね」
 確かに大の大人が突然会社辞めたくらいで警察は動かないだろう。しかし辞めたのが黒沢さんとなると俺や鍵さんには大事件だ。
「この字は黒沢さんの物ですか」
 退職届を返しながらの質問に鍵さんは頷いた。
「私が見る限りは。習字は得意だった」
「朝置いてあったと言う事は、昨日の夜から朝にかけてここに黒沢さんが来たということですね? 確認は取れましたか」
 鍵さんはしっかりと頷いた。
「朝7時くらいに出社して私の執務室に入ったらしい。早朝出社した者が見ている。様子は変わらなかったそうだ」