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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 プロローグ

トライを開始してからもう1ヵ月。俺の精神力も限界に達しようとしていた。
 期待と緊張感、そして半ばの諦めを交えつつスイッチを押す。数秒のラグの後コンピューターは8時間という数字を表示した。
 こ、これは?!
 来たか、来たのか?!
 七色に輝くモニター。それが消えるとコンピューターは和風な美女を映し出した。
「キター!」
 俺は思わず立ち上がり拳を天に突き上げた。人気のブラウザーゲームきってのレアアイテムゲットの瞬間だった。
「私が来たのがそんなに嬉しいんですか?」
 店の入り口から俺の感動に水を差す声がした。この声は・・・。
「予想はしていましたがそれほど歓迎していただけると私も嬉しいです、センパイ」
 そこに立っていたのはやや背の低い女子中学生。茶髪というより赤毛に近い長い髪を三つ編みにしたそばかすがある女だった。
「ご無沙汰してます、暇そうですねセンパイ」
 失礼なことを言いながらにっこり笑った女。
こいつは森野。下の名は知らない。先月訳あって入学していたピース学園の生徒だ。もっとも俺が入学したのは高等部でこいつは中等部2年だ。新聞部のやり手記者でもあり得意分野はスキャンダルだ。
「そうか、よく来たな」
 俺もニッコリ微笑んでパソコンデスクの横に手を伸ばした。
「センパイ、何防犯ボールに手を伸ばしてるんですか?!」
 一歩引いてクレームをつける森野に俺はさらりと答える。
「ん? 店に来たらぶつける約束だったじゃないか」
 こいつには少々おちょくられた恨みがある。
「そんな約束してませんよ! 入っていいですか」
 少し焦った様だったが冷静さを取り戻しやがった。なかなか腰のある奴。
「ここは遊び場じゃない。学校へ行け」
 露骨に面倒くさそうに言ったのに森野はまともに受け取らず涼しげな表情のままだった。
「やだなぁ、まだ夏休みですよ」
 そういえば今日の森野はセーラー服はセーラー服でもピンク色のこじゃれたシャツをお召しだ。全国的に学生さんは夏休み真っ只中だ。
ぬう…俺はほとんど無休で働いているのに・・・。俺の恨めしそうな顔を見て森野はうんうんと頷いた。
「やっぱり暇そうじゃないですか。入りますよ」
 森野はズカズカと店内に侵入してきた。毎度のことながら女という生き物は俺の言うことを無視する。
 ここは俺の店、便利屋BIG・GUNだ。ここC市の中央よりやや北、田舎町のさらに田舎に位置する鉄筋3階建て地下1階の自社ビルである。
 れっきとした会社であり俺が社長で正社員が2名。3人とも2階と3階の寮に住み込んでいる。まぁ職場であり我が家でもあるわけだ。
 一階のここ事務所は広いスペースがあり入り口にカウンター、その向こうにデスクが4つ向き合い、その横に5人がけの応接ソファ。で、奥にはドアもついている商談室がある。
 森野はソファまで突き進み棚に飾ってあった写真に気づいた。
「あ、これローランドさんですね、写真飾ってるなんてやっぱり本命なんですね!」
 いやそれ確かにジュンが真ん中に写ってるけど俺達BIG・GUN全員写ってるから…。
 春に撮った写真で真ん中に依頼人を置いてBIG・GUN全員が周りを囲んでいる和やかな写真だ。
 俺達が全員写っている写真は実はこれしかない。しかも内1名はもういない。だから記念写真としてそこに飾ってあるのだ。
 森野の言ったローランド、セーノ・ジュン・ローランドはピース学園中等部1年生の女子である。つまり森野の後輩というわけだ。以前ボディガードを依頼されたことがあり、それ以来の付き合いだ。スキャンダル好きの森野としては色恋沙汰にして記事にしたいようだ。と、突然森野の表情が豹変した。
「て、ああっこれ三郎さんも写ってるじゃないですか! その他男前がいっぱい」
 ああ、俺も写っているぞ。
「これください!」
 言いながらスタンドごとバックに入れやがった。
「やるもんか、返せ」
 俺は立ち上がってバカ女から写真を取り返した。しかしなお森野は抵抗する。
「いいじゃないですかー、データだけでもくださいよ」
「断る」
「交換にローランドさんの写真あげますから」
 なんでお前がジュンの写真持っているんだ。
俺の疑問を読み取ったか森野は自慢げに語りだした。えっへんと胸を張ったが…無い。
「新聞部の後輩が隠し撮りしたんです。美術の時間に彼女モデルやったんで」
「なんであいつがモデル?」
「可愛いからに決まってるじゃないですか」
 納得。
 森野の言うとおりジュンは金髪エメラルドアイを持つ美少女だ。
「買いませんか、安くしときますよ」
 関西商人のように揉み手しながらぬかしやがった。
「いらん」
「ヌードデッサンですよ?」
「買おう」
 すると森野はため息をつきやがった。
「嘘に決まってるじゃないですか。どこの学校が授業で女子中学生ひん剥くんですか」
 貴様! 純真な若者の心をもてあそんで何が楽しい!
「ええい、帰れ。俺は忙しいんだ」
 やっとゲットしたあいつのレベリングをやらねばならんのだ。俺は森野の首根っこ掴んで文字通りつまみ出しにかかった。森野はジタバタ抵抗して喚いた。
「仕事の依頼に来たんですよぉ」
「うるさい、うちは高いんだ。子供に雇えるか!」
「物で払いますぅ」
 森野はバッグから皮のケースを取り出した。何だこれは爆弾ではあるまいな。俺は森野からケースを受け取ると開封してみた。
 こ、これは?!
 出てきたのはレトロなデザインのカメラだった。しかも赤いマーク!
「ライカだ! ライカM9! レンズは35mmズミルックスか!」
「さすがセンパイくわしいですね」
 ライカとは言わずと知れた高級カメラだ。はき出す写真の素晴らしさもさることながら機械としての精密さ美しさも他に類が無くプロからアマチュアまで幅広く支持されている。しかし所持している人間は中々いない。高価なのだ。
 森野は自分が持ってきたカメラをしげしげと眺めた。
「それ買うお金で家が建つらしいですねぇ」
「それは戦前の話だ」
 とはいえ今だって無茶苦茶高いことに変わりは無い。自動車くらいは買えてしまう金額だ。
「どこから盗んできた! 盗品で仕事するわけにはいかないぞ」
「意外と真面目なんですねぇ。大丈夫、親のですよ」
 意外ととは何だ。俺より真面目なやつがこの街にいるか!
「親のを盗んできたのか!」
「親も承知です。とりあえず現金が無いのでそれは質ということで…」
 森野の表情は割りと真剣だった。遊びに来たわけでは無さそうだ。
 ふむう・・・。
 しげしげとライカを見る。ライカはコレクターも多い。買って使いもせず大切にガラスケースの中にしまいこむ連中だ。まぁライカは美術工芸品という見方も出来るのでそれを否定する気は無いが…。このカメラの主はそうでは無いようだ。角が使い込まれて磨り減っていて金属のメカ特有の味をかもし出している。しかもキチンと整備されていてピカピカだ。森野の親にとってこのカメラは単に高価な貴重品である以上に大切な相棒であるのだろう。
「親御さんはこれを大切にしているだろう」
 俺が突然シリアスなしゃべり方をしたので森野も付き合ってしんみり返した。
「ええ、まあ」