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最後の孤島 第3話 『煙にまかれて』

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「着いた着いた。俺はここで待っているから、まずは挨拶だけでもしてこいよ」
ダニエルは、地面にめりこんでいるプロペラ機の前で立ち止まる。そのプロペラ機は、古い大き目の機体で、日本史の教科書でチラリと見たことがある……。
 その2つのプロペラエンジンをつけた飛行機は、旧日本軍のものだった……。グリーンの機体には、日の丸がついている。

 とりあえず、ドアをノックする。……返事は無い。仕方がないので、そのまま入ることにした。


「失礼し」
「おいガキ!!! 貴様、敵のスパイだな!!!」

 古いプロペラ機の中に入り、挨拶をしようとしたとき、大声で住人が怒鳴ってきた……。思わずムッとする。
「なんだその顔は!!! 私は、帝国陸軍の将校なんだぞ!!!」
また怒鳴ってきた。

 私の目の前には、旧日本軍の陸軍将校の格好をした老人が座っている。下手糞な繕いだらけの軍服に、かつての威厳さは感じられなかった。
 この老人は、大西洋戦争中、この島にきたらしい。今は家になっている旧日本軍機が、ここに墜落してしまったようだ。
 そして、70年前に日本が降伏したことを信じずに生きてきたそうだ……。かつては、島を出歩くたびに、白人に喧嘩を吹っかけていたらしい。もっとも墜落の際に、武器はすべて壊れたので、大事には発展してしない。90歳を超える高齢のため、最近は家に閉じこもりがちだそうだ。
 この島の人々は、優しい人ばかりなので、哀れなこの老人の孤独死を待ちわびるなんてことはしない。ただ、さすがに手がかかるため、同じ日本人である私に、そのお役目が回ってきたというわけだ……。
 めんどくさいことになりそうなので、日本が降伏したということは黙っておくことにした。まあ、教えても信じないだろうが。

「将校さん。私は、倉野比奈と申します。あなたの世話をしにきました」
作り笑いを浮かべながら、とりあえず挨拶する。怒鳴られにきたんじゃない。
「ふん! ワシの名前は、倉澤濁忠という。自分の面倒ぐらい、自分でみれる!」
ただの強がりだ。
「食事を用意してもらっているらしいじゃないですか!」
そういえば、家のドアの前に、食べカスの残った皿が置いてあった。誰かが用意してあげているのだろう。
「貴様たち民間人が、軍人に奉仕するのは当たり前だ」
ただの逃げ口上だ。というか、所属先はもう消滅しているだろう。
「この島に来て70年間、何か戦果を上げたんですか?」
今まで何やってきたんだと、聞かずにはいられなかった。
「失敬な!!! ワシは果敢に戦ってきたぞ!!!」
幸か不幸か、彼が倒した人間はいないそうだ。戦ったということ自体は事実だが。
 しかし、これ以上言うと、本気で怒り出しそうなので、黙っておく。いくらヒマとはいえ、年寄りの相手で時間を潰したくはない。